例えば、【髪の色を注意する】というケースについて考えます。
企業イメージや扱っている商品などによっては、髪の色を指導する現場もあります。その際の規定を「明るすぎる髪色は不可」とすれば、個人の感覚に頼らざるをえません。主観で注意しても相手から「明るいうちに入らない」と反論されれば平行線です。
髪色を規定するならば、ロッカールーム等に髪見本を置いておき「これを基準に明るいかどうか判断してください」と、誰もが明確にわかる基準を事前にアナウンスする必要があります。そこまでするのかと思われるかもしれませんが、現場で起こりうるケースを想定し、細やかにルールを決めることによって、認識の差異を埋めることができるのです。
【時間のルール】もしかりです。就業開始時間には、業務を始められる体制を整えておくのか、社屋の玄関に到着していれば問題ないのかも、現場によってまちまちでしょう。現場ルールを決めて周知しておかなければ、ギリギリで到着する社員に対し「社会人としてどうなんだ!」と言えば、ハラスメントと言われかねないのです。事前に、職場ルールとして全員に、例えば「5分前集合を徹底」することを周知していれば、トラブルを防ぐことが可能になります。
感情的にならないことが大切
このように、各職場において問題になりそうなことをピックアップし、具体的で誰にでもわかる表現で事前周知を行うこと、一度決めたルールでも、運用していく中で適宜修正をかけていくことが大切です。そこまですることにより、毅然とした態度で指導ができるのです。
しかし、正当な指導であっても、関わる際には感情的にならないことも大切です。人間なので感情の起伏があるのは当然です。けれども、感情的になっているときは、一方的で相手を責めるような口調になりがちです。緊急の場合を除き、気持ちがある程度落ち着くのを待ってから指導しましょう。
指導は相手の成長を促し、業務状況の向上や改善を促す目的があります。そのため、明確な指示やフィードバックが求められます。一方、パワハラの場合は、相手を見下したり、自分の思いどおりにコントロールすることを目的とし、人格否定や威圧的な態度に偏ります。つまり、相手の立場や状況を無視した言動は「パワハラ」にあたる可能性が高くなります。あくまでも業務遂行上の必要性があり、明確な目的や理由を持って具体的な言葉をもって関わることが大切なのです。
もう1つ、大切なことは現場の管理者が、安全配慮義務を正しく理解することです。安全配慮義務は、「労働者を使用する事業者の支配下にある労働者に対し、労働災害を発生させないように事前に予防措置を講じて保護する義務」です。物理的な環境だけではなく、精神的なものも含まれます。
また、防止手段を尽くすという予防責任であり、結果責任ではありません。労働災害が発生した場合でも、社会通念上相当とされる防止手段を尽くしていれば、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任は免れます。そうした観点からも、予防策が大切だということがご理解いただけると思います。
そして、安全配慮義務を負う者は、使用者に限りません。一定規模の会社においては、組織内で権限の委譲が行われているのが通常であるため、業務上の指揮監督をする者が安全配慮義務を負うことになり、ひとりでも部下がいれば、安全配慮義務が課せられると認識しておくのがよいでしょう。
指導する側、受ける側の双方を守るために、組織内の明確なルール作りが求められます。
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