刻一刻と事態の動くウクライナ情勢だが、ロシア軍がウクライナの軍事施設を「高精度兵器」で標的にし、軍事インフラ、防空施設、軍用飛行場、ウクライナ空軍を無力化する攻撃を開始して以来、ロシアのプーチン大統領と欧米首脳の外交交渉目的は、戦争回避から戦争の停止へ移った。
プーチン氏の強気な攻勢は間髪を入れず、行動に移されている。ウクライナ東部の親ロシア派が実効支配する一部地域を一方的に独立国として承認。同地域に平和維持の名目でロシア軍を派遣するように命じ、さらに首都キエフなどへの軍事攻撃を行っている。アメリカのバイデン政権は侵攻という言葉を当初避けたが、前言を翻し、ロシア軍の平和維持活動について侵攻との認識を示した。
すでにウクライナとの国境沿いのロシア領土および、ベラルーシ南部でロシア軍が演習を行った事実も加え、ウクライナに対してロシアが軍事侵攻する意志があったことが明確になった。しかし、振り返ってみれば、欧米首脳は危機を警告するだけで「平和的解決は可能」という考えに固守し、プーチンの本気度を見誤った可能性は高い。
フランス、ドイツのアプローチも実を結ばず
アメリカと足並みをそろえて、ロシアへの経済制裁を開始した欧州連合(EU)にとって、ウクライナは陸続きなだけに、アメリカ以上に危機感を持っている。アメリカのトランプ前政権以来、北大西洋条約機構(NATO)に対して欧州加盟国の役割強化の流れにある欧州の主要国、フランス、ドイツ、イギリスは、第2次世界大戦後の過去のいかなる時期よりもロシアの脅威に対する責任が増している。
ところが、フランス、ドイツをはじめとしたロシアへのアプローチは効果を生んでいない。
フランスのマクロン大統領は2月7日に、ドイツのショルツ首相は15日にモスクワを訪問し、プーチン氏と首脳会談を行った。
またマクロン氏は20日にバイデン氏とプーチン氏に対して米露首脳会談を提案し、原則合意したとフランス大統領府は発表した。ところが翌日、プーチン氏がウクライナの一部地域の独立を承認。米露首脳会談の前提条件である軍事侵攻しないという状況を壊したことから、欧米各国首脳は「国際法への完全な違反」と不快感を示し、米露首脳会談は流れた。
注目すべきは、すべてプーチン氏のペースで物事が動いていることであり、米欧首脳はメディア向けに危機感を表明する一方、対応の迅速さは見られないままだ。
その間、プーチン氏は最大の交渉相手であるアメリカおよび欧州諸国の反応を見ながら、状況を正確に見極め、各国の微妙な対ロシア外交の違いの隙をついてゲームを進めているように見える。
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