首脳会談も無力「ロシア軍侵攻」欧州が見誤った事 なぜ合理性で交渉?クリミアの教訓生かせず

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今回はEU議長国という立場から、欧州自治の強化とNATO加盟の関係について、より現実的な立場の構築を目指すフランスが、対ロシア交渉で道を開こうとしたが失敗に終わった。理由の1つはロシアの交渉相手はアメリカであり、フランスやドイツではないからだ。マクロン氏はそれをわきまえて米露首脳会談を提案したが、プーチン氏は気に入らなかったようだ。

「長期的にはアメリカがヨーロッパの領土での存在感を持続的かつ大幅に強化することに対して関心も手段も持っていないと思われる」「(バイデン政権にとって)インド太平洋および中国との戦略的競争にアメリカの利益の軸足があるようだ」「アメリカはNATOへのヨーロッパ人のコミットメントが彼らの利益になると考えている」との認識をシモン氏は示した。

実際、NATO加盟国でもないウクライナの危機に対して、ロシアの軍事侵攻を受け、バイデン大統領は「わが国の軍は紛争に関与しておらず、今後も関与しないだろう」と述べ、「わが軍はウクライナで戦うためにヨーロッパに行くのではなく、NATO同盟国を守り、東部の同盟国を安心させるために動員する」として、同盟国を守る大義名分を明確にした。

何人かのフランス人に取材すると、「冷戦は終わったというのは幻想だった。ロシアの本質は今も変わっていない」(45歳、IT系企業社員)、「もっと早くプーチンのロシアを何とかすべきだった」(51歳、地方公務員)と言う。国際情勢に詳しいアナリストは「そもそもドイツのメルケル政権がロシアに甘かったことで、ウクライナは苦境に立たされた。今回の危機はドイツが生んだものだ」とドイツを手厳しく批判した。

「われわれはプーチンのゲームを誤解している」

IRIS創設者のパスカル・ボニファス所長は、ロシアのウクライナ侵攻について「ロシア、欧州双方に甚大なダメージをもたらすリスクを生んだ」と警告している。

ソ連邦崩壊後のロシアの安全保障戦略を専門とするフランス政治社会科学研究所(ISP)のアンナ・コリン・レベデフ氏は「われわれはプーチンのゲームを誤解している」と述べ、プーチンは歴史を操作することによって「彼自身の栄光の物語を書こうとしている」と指摘した。

さらに「2014年のロシアによるクリミア併合以来、ロシアはわれわれが合理的だと思う以上の行動をとることができる」ことを学んだはずなのに、今回もその合理性で交渉しようとしたことに疑問を投げかけた。

中国の台頭でかつてのアメリカに対峙した大国ロシアは冷戦後、存在感が薄れ、その受け入れられない現実への不満が頂点に達し、プーチン氏は自分の栄光のためにも世界の目をウクライナに向けさせ、力の誇示をはかったともいえる。その不満と怒りの感情に関心を払わなかった西側諸国の無関心が戦争を引き起こす一因だったと筆者は見ている。

安部 雅延 国際ジャーナリスト(フランス在住)

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あべ まさのぶ / Masanobu Abe

パリを拠点にする国際ジャーナリスト。取材国は30か国を超える。日本で編集者、記者を経て渡仏。創立時の仏レンヌ大学大学院日仏経営センター顧問・講師。レンヌ国際ビジネススクールの講師を長年務め、異文化理解を講じる。日産、NECなど日系200社以上でグローバル人材育成を担当。

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