ロシアのウクライナへの攻撃が開始され、世界がこれまでにない緊張に包まれている。筆者は、ロシアのシナリオとして、ロシアがウクライナ東部(ドンバス)地域の「ドネツク人民共和国」、「ルガンスク人民共和国」の独立を承認し、同「国家」との国際条約に基づくウクライナ東部地域への軍の駐留を行う可能性を以前から指摘していたが(世界が大騒ぎ「ロシアのウクライナ侵攻」その理由)、正直、ここまでスピーディな展開は予想していなかった。
ロシアは、なぜドンバスへの軍の駐留にとどまらず、キエフやハリコフを含むウクライナ各地の軍事施設へのミサイル攻撃に踏み切ったのだろうか。世界は、アメリカ、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)、国連といったさまざまな国や組織のロシア非難で渦巻いているが、ロシアの行動を理解し、その狙いを考察するには、何よりもロシア自体の言葉に耳を傾ける必要がある。
また、当事者であるウクライナや、新たな「国家」であるドンバス地域、そしてロシアとアメリカの望んでいたシナリオを改めて考察する必要があるだろう。今回の強引な軍事侵攻についてはウクライナで兵士だけではなく、民間人の犠牲者が出たり、一般の人々の生活を脅かしていることを踏まえると、その行動を正当化することはできない。だが、ここではあえてロシア側の思惑を探ることで解決の糸口を考えてみたい。
ドンバス住民はロシアにとって「国外の同胞」
まず、ロシアにとってのドンバスが持っている意味だが、これはプーチン大統領が2月21日に行った国民向けの演説でも繰り返し言及しているように、ロシア語、ロシアの伝統や文化を守っているロシア系住民の居住地である。2020年のロシア憲法改正において、「国外の同胞の権利、利益の保護、ロシア文化のアイデンティティの維持」を新たに追記している。ドンバス住民はロシアにとって「国外の同胞」にほかならない。
つまり、ロシアは憲法に従って、ドンバス住民の権利と利益を保護する義務を負っていることになる。2014年のウクライナの政変で民族主義色の強いポロシェンコ政権が誕生したことで(現在のゼレンスキー大統領はその後任)、ドンバスの分離派勢力は彼らの権利が侵害されることを危惧して独立を宣言し、武装闘争を開始した。当然ウクライナ政府はこれを認めず、激しい戦闘が起こった。これが2014年から2015年の初めにかけてのウクライナ情勢である。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら