韓国文学ブーム引っ張る「女性作家たち」の凄み フェミニズム文学とクィア文学という新潮流

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そもそも日本において韓国文学ブームが生じる契機となったのは、周知の通り、チョ・ナムジュ著『82年生まれ、キム・ジヨン』(日本語訳刊行2018年)というフェミニズム小説である。その数年前から、韓国文学ブームの兆候は仄見えていたものの、それを顕在化させたのは、やはりこの作品だと断じてよい。

妊娠、出産によってキャリアを閉ざされた30代女性の半生を通して、不条理な性差別が跋扈する韓国社会の宿痾を剔抉(てっけつ)した小説である。韓国では2016年秋に民音社(ミヌムサ)から上梓され、フェミニズム小説としては未曾有のベストセラーになった。2019年には映画化もされている。

直接的暴力を伴う苛烈な内容ではなく、現代の普通の女性が経験しうる苦悶を精緻に描出したストーリーは、その受け止め方に世代差や個人差はあったものの、多くの女性たちの共感を呼び、〈わたしの物語〉として広く読まれた。主人公の名前「キム・ジヨン」は、1982年に出生した女子の名で最も多いものであり、物語の普遍性を象徴している。韓国同様、ジェンダーギャップ指数の低い日本においても本書が人々の耳目を引いたのは首肯しうる。日本にもこうした本がヒットするだけの土壌が潜んでいたということである。

韓国フェミニズムの諸相

ところで、『82年生まれ、キム・ジヨン』が韓国で大ヒットした背景には、作品自体が蔵する価値はもとより、それ以前から高まりつつあったフェミニズムの波がある。こうした波を、文化評論家のソン・ヒジョンは「フェミニズム・リブート」と称呼した。

2015年には、ミソジニー(女性嫌悪)カウンターサイト「メガリア」が登場する。2010年に開設された、ミソジニーサイトの代表的存在「日刊ベスト貯蔵所(通称「イルベ」)」などの女性差別に対するミラーリングを行ない、また、女性への盗撮を根絶するためのキャンペーンをはじめ、さまざまな活動を展開したが、その言動の過激さによって批判も浴びた。サイト自体は2017年に閉鎖されたものの、メガリアという語は韓国フェミニズムを象徴する記号と化し、またメガリアから派生したラディカルフェミニストたちによるミサンドリー(男性嫌悪)サイト「ウォーマド」によってその思想や活動は継承された。なお、メガリアについては、『根のないフェミニズム:フェミサイドに立ち向かったメガリアたち』(キム・インミョン他著)に詳しい。

フェミニズム運動をさらに加速化させることとなった決定的な出来事は、2016年5月に起きた「江南駅女性刺殺事件」である。ソウル有数の繁華街・江南駅付近の商業ビルの両性共用トイレで23歳の女性が殺害された凄惨な事件である。加害者の30代男性が「女たちが自分を無視してきたから」などと警察に供述したことから、この事件を「フェミサイド」と認識した人々によって、事件現場は被害者を弔うポストイットで溢れ、SNSを中心に韓国社会全体へと追悼の動きが拡がっていった。

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