韓国文学ブーム引っ張る「女性作家たち」の凄み フェミニズム文学とクィア文学という新潮流

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これは同時に、これまで緘黙(かんもく)していた女性たちが、ミソジニーに由来する被害体験を次々に語り始めるきっかけとなり、家父長制や男尊女卑的な価値観が瀰漫(びまん)する韓国社会のありようを大きく揺るがすこととなった。このような文脈の中で、『82年生まれ、キム・ジヨン』がベストセラーとなったのは、ある意味で自然な帰結とも言いうる。

爾来、フェミニズムの波濤(はとう)は勢いをいや増していく。アメリカに端を発し、世界的に拡散した#MeToo運動は韓国にも波及し、いくたりもの男性著名人が告発された。1960年代のアメリカの学生運動やフェミニズム運動のスローガン「個人的なことは政治的なこと」というのはまさにその通りで、韓国の#MeToo運動を、女性が主導する〈第二の民主化運動〉として定位する論者もいる。2018年5月から12月にかけて行なわれた、盗撮の糾弾と警察の公正な捜査を求める「不便な勇気デモ」には、計34万名もの女性たちが参加し、#MeToo運動開始以来、女性だけのデモとしては最大規模のものとなった。

「女性らしさ」という呪縛からの脱却

社会からの「女性らしさ」の強要を「コルセット」と名づけ、「脱コルセット」「脱コルセット運動」という新語も生まれた。「脱コルセット(運動)」とは、男性目線の「女性らしさ」に対する異議申し立てであり、「女性らしさ」の呪縛からの脱却を積極的に目指すものである。日本語には「女子力」ということばがあるが、「コルセット」は意味的にそれと通ずるところもあるように思われる。『脱コルセット:到来した想像』という書籍もあり、近々タバブックスから日本語訳も刊行される予定だという。

この本の著者イ・ミンギョンは『私たちにはことばが必要だ』という、『82年生まれ、キム・ジヨン』と並んで韓国でベストセラーになった、フェミニズムの重要文献の著者でもある。セクシスト(性差別主義者)に対抗するためのことばの「マニュアル」であり、日本語訳も出ている(『私たちにはことばが必要だ:フェミニストは黙らない』)。

書店には、韓国のフェミニズム書籍に加えて、ベル・フックスやレベッカ・ソルニット、ロクサーヌ・ゲイ、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェなど、海外のフェミニズム関連の著作が数多く並び、また、前述の『私たちにはことばが必要だ』の版元でもあるボムアラムやイフブックス、ヨルダブックスなどのフェミニズム出版社や、femmのようなフェミニズムブックカフェもある。

一方で、こうしたフェミニズムの波に反発や瞋恚(しんい)を覚える男性も少なくなく、両性間の対立、分断はいよいよ深刻化している。

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