「相手に動いてもらう」ために必要な7つのスキル 「3つの落とし穴」と「4つの壁」を超える事が重要

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3つめの落とし穴は、正しさで勝てないほうの心が折れてしまうことです。

人は、相手を「正しさ」で上回るのが難しいとき、とりあえず考えるのをやめて従う方向に流れがちです。心が折れて思考停止するのです。上司を説得しようとしたら逆に論破された部下が、「あの人には何を言っても無駄だ」と思い込むのがよい例です。そうなると、組織の風通しは悪くなり、部下に気持ちよく動いてもらうことからかけ離れてしまうでしょう。

正しさを競う世界では、疑問や反論を「よくないもの」と捉えがちです。もちろん、意に沿わない突っ込みが入ることを避けたいと思うのは自然な感情です。でも、疑問や反論は結論の質を高めてくれるものともいえます。

例えば、仕事を納期通りに出さない部下に対して、上司が「小さな約束を守らないやつはダメだ」と叱っても行動が改善されないとき、部下の言い分(反論)にあえて耳を傾けてみると、納期に対する部下と上司の認識がずれていたことがわかるかもしれません。部下から「納期に遅れている感覚はなかった」という発言が出てきたとき、それを単なる言い訳(正しくない行為)と決めつけるのではなく、裏にある背景を理解することが大事です。

すると、最初は「納期を守るかどうか」という問題だったのが、「上司と部下の間にある感覚の違い」について踏み込んだ対話をする機会につながります。そこで、「納期」以外にも日頃から感じていた「ずれ」について認識を合わせることができれば、部下のパフォーマンスだけでなく、2人の関係にもよい影響がもたらされるはずです。疑問や反論を歓迎すれば、結論を「よりよいもの」へと進化させられるわけです。

相手が抱く反論「4つの壁」の具体例

こちらからの提案に対して相手が抱く疑問や反論は、主に4種類あります。ここでは「4つの壁」と表現します。4つの壁とは「関係性の壁」「情報整理の壁」「思い込みの壁」「損得勘定の壁」です。具体例で説明します。

こんな例を挙げてみましょう。総務部が業務のペーパーレス化を検討するにあたり、現場の人たちに意見を聞きたいと考えていて、「1時間のヒアリングを受けてもらえる人を、各部署から2人ずつ出してもらいたい」と現場の管理職に依頼したとします。このとき、業務のペーパーレス化によるメリットは現場にもあるはずですが、現場の管理職からすると「急に時間を取られることへの抵抗」や「ヒアリング対象者へ説明する面倒くささ」があります。そこで次のような疑問や反論が起こると推察されます。

まず、「こちらも忙しいので、現場の事情も考えてほしい。これは役員の了承事項ですか?」といった反論です。この発言の背景には「総務部は現場をわかっていない」という気持ちがあります。言い換えれば、相手に気を許していないので動きたくないのです。これが「関係性の壁」です。

「本当に全部署へのヒアリングが必要ですか? 一部の部署でもよいのでは?」といった反論もあるかもしれません。これは言い換えれば、状況がクリアになっていないので動きたくないということです。これが「情報整理の壁」です。

「以前もこの類のヒアリングに協力したが、現場には結果が共有されず、意味があるのか疑問に感じた。今回も同様では?」という類の反応があれば、それは「思い込みの壁」があるといえます。過去に嫌な思いをして、今回も同様のできごとが起こるに違いないので、動きたくないと思っているのです。

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