ちなみに、雑誌『BRUTUS』(2015年7月15日号)で「僕の場合、影武者はいないんだ」「誰とは言わないけれど、ほかの人はいっぱいいるんだ、16人とかさ」「でも、僕と筒美京平さんにはいない。それはプライドなのね」と語っていて、松本隆の「作風」が、他の誰でもない松本自身の手によって紡ぎ出されたことを確認するのだが。
では、具体的に、その「作風」を解析していきたい。
まずは「見事な心理描写」である。少し突っ込んで言えば、それは、形容詞や動詞ではなく、具体的な名詞を伴わせて、微妙な心理をキャッチーに表現した「松本隆パンチライン」に象徴される。
例えば、原田真二『てぃーんずぶるーす』(1977年)の「♪都会が君を変えてしまう 造花のように美しく」。「造花」という言葉が持つセンチメンタリズムは、小5の私の琴線にも、しっかりと触れた。
松田聖子『赤い靴のバレリーナ』(1983年)の「♪前髪1mm 切りすぎた午後 あなたに逢うのがちょっぴりこわい」。教室で私と席を並べている女子たちは、こんな繊細な心理を持った生き物なのかと、高2の私は驚いたものだ。
平成ものでは、松本隆×筒美京平による傑作、中川翔子『綺麗ア・ラ・モード』(2008年)の「♪薬指の長い手が好き 優しく髪に触れる」の「薬指」がいい。女性が男性の指に執着するリアリティとほのかなエロティシズム。
以上は、松本隆による「見事な心理描写」のほんの一例。描写力だけではなく、「パンチライン」としてキャッチーに届かせる表現力も含めて、唯一無二のものだと思う。
松本隆の「作風」を支える根本思想
2つ目として、「言葉のリズム感」を指摘したい。松本隆の歌詞には、字余りや字足らずが極端に少ない。そのため、「見事な心理描写」をした言葉も、言葉偏重の「詩」ではなく、歌って気持ちのいい「詞」になっている。
このあたりは、伝説のロックバンド=はっぴいえんどのドラマー出身ということが強く影響していると思う。事実、先述の『松本隆のことばの力』の中で、松本隆本人がこう語っている。
そして3つ目は、少々持って回った言い方となるが、「作風」を支える根本思想としての「個としての人間性への洞察」だと考える。
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