「薬師丸ひろ子」作中の歌声にこもる圧倒的魅力 朝ドラ「エール」の賛美歌が聴く者を浄化した
朝ドラこと連続テレビ小説「エール」(NHK総合 毎週月〜金 朝8時〜)で薬師丸ひろ子が歌ったことが話題だ。
「エール」は昭和の大作曲家・古関裕而をモデルにした主人公・古山裕一(窪田正孝)が戦争を経て、祈りの曲「長崎の鐘」や平和の祭典のテーマ曲「オリンピック・マーチ」などを生み出していく物語。そこで薬師丸が演じているのは、裕一の妻・音(二階堂ふみ)の母・関内光子。彼女は音をはじめとした3人の娘(二階堂ふみ、松井玲奈、森七菜)がまだ幼いときに、夫(光石研)を亡くし、その後、女手ひとつで育ててきた気丈な人物である。
一見、清廉潔白だが、亡き夫からは「黒みつ」と呼ばれていたという、ちょっと口の悪い面もある、自由奔放で懐の深いお母さんを、薬師丸ひろ子は生き生きと演じている。
見るも無残な焼け跡を彷徨いながら賛美歌を歌う
10月16日(金)放送の「エール」90話では、太平洋戦争中、光子の暮らす愛知県豊橋で空襲があり、何もかもが焼けてしまう。見るも無残な焼け跡を彷徨いながら、光子が歌うのは賛美歌496番「うるわしの白百合」。その声は暗闇に注ぐ一筋の白い光のようで、光子の姿は焼け跡に祈りを捧げる聖母のように見える。
舞台劇のような演出、なかなか素敵だなと思ったら、実は、この場面、最初は歌う予定ではなかったのが、薬師丸ひろ子、本人が「うるわしの白百合」を歌いたいと提案したのだという。
チーフ演出家・吉田照幸はこの週の脚本も書いていて、そこでは光子は「戦争の、こんちくしょう! こんちくしょう!」とうなりながら地面を叩くことになっていた。
「僕は戦争の厳しさを光子さんに担ってもらおうと思っていたんですね。でも、薬師丸さんから賛美歌を歌いたいと提案を受けたときに、セリフで表現するだけではない違う何かが生まれるんじゃないかなと思いました」と吉田は言う。実際撮影してみて、「さすが薬師丸さん。あの歌によって喪失感と哀しみが色濃く伝わってくると同時に、そこから立ち向かわなくてはいけないという力強さを感じる場面になりました。それはまるで長い映画のワンシーンを見るようで、もはやドラマじゃなくなっているとまで思いました」とこの場面の出来に太鼓判を押した。
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