「薬師丸ひろ子」作中の歌声にこもる圧倒的魅力 朝ドラ「エール」の賛美歌が聴く者を浄化した

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薬師丸ひろ子が作品を浄化するのは朝ドラだけではない。それどころか、薬師丸ひろ子のウィスパーボイスはデビューからずっと聴く者を浄化してきたと言っても過言ではない。

1978年、角川映画『野生の証明』で鮮烈にデビューした薬師丸ひろ子は、1981年、主演映画『セーラー服と機関銃』で初めて主題歌を歌い大ヒット。その後、『探偵物語』(1983年)、『メイン・テーマ』(1984年)の同名曲、『Wの悲劇』(1984年)の「Woman“Wの悲劇より”」など続々主演作の主題歌を歌った。

薬師丸の出る映画は、ハードボイルドな世界にいたいけな少女が踏み込んで成長していく過程が描かれ、終わり方は単純なハッピーエンドではなくすこし苦さが残るものが少なくない。多くの血が流れる物語もある。でもどんなことがあっても必ずや、エンディングで薬師丸ひろ子の歌う清らかな主題歌によって浄化されるのである。

この頃、彼女の歌と映画を組み合わせて見た人は、人生には喜びと哀しみが水彩画のように溶け合っていることを学んだと思う。それはすなわち「愛とはなにかわからないけど傷つく感じがすてき」(「メイン・テーマ」(作詞:松本隆)みたいなことであろうか。

表と裏があるのを知り、すべてを包み込む

薬師丸を見出した角川映画の角川春樹を筆頭に、彼女を取り巻くスタッフが一流であったからこそだが、薬師丸がそれに応えるに足る逸材であったことも確かである。

先日、亡くなった名作曲家・筒美京平もNTTキャンペーンソング「あなたを・もっと・知りたくて」(85年)で薬師丸と関わったひとりだ。

先日、一線で活躍する作り手たちの取材をしたときも、薬師丸ひろ子がいかにすばらしいかで熱く盛り上がっていた。

清純派のようでいて、大人の汚れた世界もその黒い瞳でしかと見つめる役を演じてきたからこそ、「エール」で「黒みつ」と言われる役を飄々と演じることができる。人生に裏と表があることを知ってなおかつ、すべてを包み込んでしまう不思議な力。

10代の頃の天使の歌声でそのカリスマ性が終わらず、年齢を経て、同じ歌「セーラー服と機関銃」や「Woman“Wの悲劇”より」を歌っても聖母の歌声に成熟している薬師丸ひろ子の姿には目を見張らざるをえない。(文中敬称略)

木俣 冬 コラムニスト

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きまた ふゆ / Fuyu Kimata

東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。

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