親がわが子を受験戦争から撤退させられない理由 シンガポール政府の目玉改革への親たちの本音

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シンガポール教育省は小学3年生で科目数の増加や内容の高度化に慣れるための十分な時間と余裕を与えるとしている。また能力別の振り分けがあるとはいえ、大学進学をしなくても職業教育のコースがあり、そこでの学習意欲が高いことが指摘されているほか、成績優秀であれば「敗者復活」できる( シム・チュン・キャットシム2009 年『シンガポールの教育とメリトクラシーに関する比較社会学的研究 』 )。

2013年にはリー・シェンロン首相は演説で「PSLEの1点差で将来が決まるという親の考え方がストレスを引き起こしている」と発言し、親たちの認識を変える必要性をにじませる。

しかし、他方で、政府は10歳で国内上位1%に選抜で選ばれた子どもだけが受けることになる特別な教育プログラム「GEP」などの試験や制度を変えていないという側面もある。

このような中で、多くのミドルクラス、つまり比較的裕福で自分自身が大学卒などの高学歴の保護者たちは、政府の発信よりもほかの保護者からの情報を元に自己防衛として塾や習い事に投資する。親たちの間には”相対的な地位”を上げたいという意識と落ちこぼれることへの懸念が根強いためだ。

親の意識を変える難しさ

シンガポールの親が「負けることを恐れる」精神を、福建省の方言から「Kiasu」と呼ぶ。

オーストラリアの大学を出て、専業主婦を経て現在はパートで仕事をしている中華系のMayさん(仮名)は小学3年生と年長の娘がおり、「私は、しつけの面では結構なタイガーマザーだけど、勉強にはそんなにうるさくない」と自負する。

それでも「成績面では娘にはラスト5人には入らないでほしい。後ろから6番目ならいい。少なくとも、自分より下に誰かいるということがわかるならいい」と話す。

もちろん、家庭により温度差はある。自分自身が大卒ではないが生活に十分な仕事に就いているという認識があって、子どもの教育についてもリラックスした姿勢の家庭もある。教育関係者で学校のやっていることを全面的に信頼しており学校外教育は一切不要と考えている親もいる。

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