親がわが子を受験戦争から撤退させられない理由 シンガポール政府の目玉改革への親たちの本音

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ほかにも、現在30~40代で小学生の子どもがいる母親たちにインタビューをすると、自分の頃よりも3年分くらい進みが早い、という証言は複数でてきた。「息子は8歳だけど自分が11歳くらいでやっていた内容をやっているように思える」「カリキュラムの内容はそんなに変わっていないのかもしれないけど、問い方が難しくなっている」などの声がある。

シンガポール政府の40年来の改革

試験内容が難しくなっている背景の1つは、官僚経験者などによれば「全員が満点を取ったら差異化ができないから」。親子が対策を取れば取るほど、試験を難しくせざるをえないということらしい。

競争がますます過熱していることは、シンガポール政府も認識し、対処をしようとしている。従来は小学校低学年から実施されていた学期末試験を、2020年からは撤廃。宿題の量も減らし、よりリラックスして子ども時代を楽しんでもらいたいとする趣旨を発表した。

2021年からは、小学校修了試験(PSLE)の採点を1点単位を争うものから、幅のある評価へと変更。2024年からは総合成績によるクラス分けが生徒の過度な「ラベリング」につながりモチベーションを下げる(2019年の Ong Ye Kung教育相の発言)ため、科目別のコース分けに変更される。

2024年からの改革は40年来の教育改革として新聞等で大きく報じられていたが、さて、これらに対する親の受け止めはどうか。話を聞くと、私がインタビューした30名弱の親たちは、ほぼ全員が、政府の大きな方向性には賛成していた。

たとえば中華系でシンガポール国立大学(NUS)卒の会社員で、現在息子が小学3年生の母、Violetさん(仮名)は「今の自分の職場のことを考えても、勉強だけがすべてじゃない。新しい経済がでてきて、仕事を得るためにもっと違うことを学ばないといけなくなる」と話す。

時代は変わったと認識しているのだ。Violetさんは「私の父親は、NUSみたいないい大学を出ればいい仕事が得られると言って、そのとおりにNUSに行ったけど、父は間違っていたと思う。働き始めたら、どこの大学を出たかなんか誰も気にしないし、これからはソーシャルスキルのほうが大事」と話す。政府が目指す全人的教育の方向性にも賛成だ。

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