トヨタが「答えを教えない」からこそ人が育つ訳 当たり前の前提さえ疑いすべてを自分で考える
「なぜ?」を5回繰り返すのはなぜか?
トヨタといえば、本質的な課題意識を重視するために、「『なぜ?』を5回繰り返す会社」としても有名です。ただ、長らくトヨタの生産現場で働いていた経験からすると、実態は少し違います。
どういうことかというと、まずトヨタの現場では、「なぜ?」を聞かれるのは5回どころの話ではありません。確かに5回は「なぜ?」を繰り返せという社内慣習がありますが、それはあくまでケースバイケースで、必要ならばどこまでも「なぜ?」を繰り返すことを求められます。
入社して1年半ほどの頃には、上司に次のように詰問されたこともありました。「山本、『なぜ?』を5回繰り返すのはなぜか? お前の考えを言ってみろ」。
トヨタでは万事がこの調子で、あらゆる事柄について疑問を持ち、自ら考えるように促されます。標準化されている社内ルールですら、自分自身で考えて、その本質を理解しないといけない会社なのです。
5回という数なんてどうでもよくて、「なぜそういう理屈になっているのか、なぜ今そういう質問をしているのか、自分の頭で考えること」が求められます。そうした力、言ってみれば物事の本質を洞察する思考力を、日々のコミュニケーションによって鍛えるカルチャーのため、常日頃から「なぜ?」の嵐です。
しかも、答えは教えてくれません。自分なりの考えを言うと、「なるほど。それがお前の考えか」といった感じで、答えた内容が合っていたかどうかは、その後の上司の指示や態度で判断するしかないケースがほとんどでした。むしろ、答えは人それぞれだから、別に明確な答えは必要ない。それでも考えることに意味があるんだという訓練法、あるいはコミュニケーションのスタンスが共通化されていたと感じます。
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