トヨタが「答えを教えない」からこそ人が育つ訳 当たり前の前提さえ疑いすべてを自分で考える

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こうした「なぜ?」の繰り返しによるトヨタの思考訓練は、さまざまな場面で繰り出されます。また「なぜ?」ではなく「定義は?」という形で疑問を投げかけられることもしばしばありました。特に上司が部下に指導をするときには、この形が頻繁に使われていました。一例ではありますが、忘れもしないトヨタ時代の入社2年目頃のエピソードを紹介します。

定年退職間近のKさんという方が私の上司だったときのことです。私はそのKさんの指示に従って、着々と仕事を進めていました。スケジュールも問題なく、そのままこなしていけばKさんが設定した当初目標の達成も「楽勝」といった状況でした。当時の私の気分としては「順調、順調!」という感じでした。

そんな様子を見ていたKさんが、おもむろに私を呼び出して言いました。「キミ最近、仕事に身が入ってないんじゃないの?」と。すぐに私はこう答えたのを覚えています。「なぜですか? 仕事も至って順調です。」 すると、すぐさまこう言われました。「じゃあ、『順調』の定義を言ってみろ」と。

出ました、「定義は?」です。当時の私は「うわ、なんか面倒くさいな」などと多少苛立ちながらも、こう答えたと思います。「言われたとおり、遅れずに仕事が進んでいることではないんですか?」

「仕事に『順調』なんて言葉はない」

すると間髪入れずにこう言われたのです。「入社して2年も経って、お前はまだ何もわかってないな」と。正直言って意味がわからず、不満な顔を見せました。すると、さらにこう言われたのです。「仕事に終わりなんてないんだぞ。つまり、仕事に『順調』なんて言葉はないんだ」と。

なんというか、ほとんどトンチです。なんとなくうまいこと言われた気もして、半ば不貞腐れながら、半ば感心しながら、その時点ではよくわからないまましばし呆然としていました。しかし、Kさんの表情や態度も合わせてよくよく考えるに、「仕事が順調などとほざくやつは、そいつの勝手な自己満足の世界に生きているだけだ」みたいなことを言いたいんだろうなー……と察することができました。要するに「気ぃ抜いてんじゃねーぞ、この2年目の若造がっ!」ということです。それをストレートには言わず、問いかけの形で詰めてくるのが実にトヨタ的なのです。

この話、漫画やドラマじゃないんだから……と我ながらツッコミたくなりますが、実話です。そしてさらに、こうやって詰められました。「今度は、『仕事』の定義を言ってみろ」と。

もうこの辺りまでのやり取りで、私もKさんが言いたいことは咀嚼できていましたから「すいません、たるんでました!」などと私が折れて、そこでこのミニバトルは終了となりました。

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