トヨタが「答えを教えない」からこそ人が育つ訳 当たり前の前提さえ疑いすべてを自分で考える

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トヨタはカーメーカーですから、車というお客様の命を乗せる商品をつくっていることも、この傾向に拍車をかけます。車の問題が少しでも放置されたら、お客様の命に関わります。だから特に技術者は、おかしい・間違っていると思ったことは、たとえ相手が社長でも、総理大臣でも、余計な忖度なしにその場ですぐに言わなければならない、という暗黙のルールが徹底されていたのかもしれません。

叱責された側も、自分のほうが正しいと思うのなら、また自分の考えを補強するデータやロジックがあるのなら、相手が上司だろうがオヤジさんであろうが、きちんと反論しなければなりませんでした。声の大きな人に押しきられて自分の意見を封印し、それが理由で車にリコールを出したり、命を落とすお客様を出したりしたら、カーメーカーがこの世に存在する意味がないからです。これが生産現場における車両開発の掟だったように思います。

そのため、昨今のパワハラやモラハラが声高に叫ばれる時代でも、トヨタの車の開発現場には穏やかな打ち合わせや会議なんてほぼ皆無。いつでも、問題の指摘や論理矛盾への厳しいツッコミ、そして「なぜ?」や「定義は?」という問いかけが縦横無尽に飛び交っていたのです。

「直球」を投げ合い「すべての前提を疑う」

こうした忖度なしの率直なコミュニケーションや、それを実現するためのマインドセットを、トヨタが日本を牽引する企業のひとつとなった今でも維持できていること、それこそが、トヨタが自動車業界のみならず日本経済全体のなかでも強くあり続けることができている大きな理由のひとつだと、私は考えています。

在籍中、トヨタでは上司が部下を怒鳴りつけ、部下も精一杯反論するというシーンが毎日何度も繰り返されていました。それが日常ですし、カーメーカーのあるべき姿だと思いました。トヨタに「A3一枚にまとめる」といった細かなビジネススキルがたくさんある理知的な会社というイメージを持っている人がいるかもしれませんが、それはほんの一部であって、本質的にはトヨタはそんなにおとなしい会社ではありません。仕事に必要なことは同僚同士であっても遠慮せず、ゴリゴリと社内でやり合う会社でした。

次ページ仕入先からも忖度のない指摘をしてもらう
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