子どもの「MRI検査」に台本ができた深い理由 最初は「恐怖の対象」でしかなかったが…

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ディーツはこの問題を解決するために、スタンフォード大学のdスクール(「デザイン思考」を教える教育部門。IDEO創業者たちが中心に立ち上げた)の門をたたき、その教えを請いました。まずは少人数の異職種チームをつくり、「子どもたちにとってMRI検査とはどんな体験なのか」を多面的に考察します。

そのボランティア・チームには、子ども向け博物館の幼児教育専門家や地元の小児科病院の「チャイルド・ライフ・スペシャリスト(入院している子どもとその保護者の心のケアに従事するアメリカの医療専門職)」も含まれていました。

そのうえで子どもや親たちにヒアリングを行います。「MRI検査はどうか」といった直接的な問いだけでなく、「病院では何がイヤなのか」や「退院したら何をしたいのか」を調べていきました。

子どもたちにとって本当にダイジなことを、理解するために。

その結果、入院中の子どもたちにとっていちばんの望みは「外に出て自由に遊びたい」「スポーツしたい」といったことでした。もちろんそれ自体に応えることはできません。でも、MRI検査を、それに近づけることはできるかも……。

GEはMRI検査を「冒険の旅」に変えた

ディーツたちはMRI検査を「海賊船に乗り込んだ子どもたちが、見つからないようにじっと隠れているというアトラクション」に変えてしまいました。

装置の外観はもとより、装置を設置する検査室全体をカラフルに装飾しました。子どもたちと接する検査技師にも「台本」を渡し、接し方を訓練しました。巨大な装置の中に入る前には「今から海賊船に乗り込むよ。海賊たちに見つからないようにじっとしていて」とそっと声をかけ、大きな音が鳴り始める前には「さぁ、海賊船が大砲を撃ち始めるぞ!」と大声で伝えます。

MRI装置にカラフルなシールを貼るところから始まった試作実験は、「アドベンチャー・シリーズ」という商品に結実し、鎮静剤が必要な子どもたちは1割以下に激減しました。MRI室は子どもたちにとって「また行きたい場所」に変わったのです。

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