コロナ禍が雇用環境に与えたインパクトは、オークンの法則(Okun's law)によって捉えられる。オークンの法則とは、「成長率が悪化すれば、失業率は上がる」という経験上当たり前とも言える関係性であり、実際に多くの国で失業率の変化と成長率は負の相関関係があることが確認されている。2000年以降の日本のデータを確認すると、実質GDP成長率が1%ポイント悪化すると、失業率(前年差)が0.11%ポイント悪化(上昇)するという関係がある。
コロナ禍および緊急事態宣言によって2020年4~6月期の実質GDP成長率は前年同期比マイナス10.3%の大幅なマイナスになった。オークンの法則に当てはめると、失業率が前年差プラス1.1%ポイントとなるのが通常である。そして、実際の失業率は同プラス0.5%ポイントにとどまった。この結果からは「実体経済の縮小と比べれば、コロナ禍による労働市場の悪化は限定的だった」と言える。
しかし、内閣府の試算を用いた潜在「失業率」は同プラス3%ポイント以上だったことから、結論は「コロナ禍は過去のイベントと比べて労働市場に大きなダメージを与えた」というものに変わる。コロナ禍はサービス業を中心とした雇用に大きな影響を与える事象だった、と整理することができる。
「温存」された潜在的な失業者は直近で100万人
内閣府による分析を用いると、雇用調整助成金の特例措置などの政策効果により、失業率が2020年4~6月期は3.4%ポイント、7~9月期は1.6%ポイント、10~12月期は1.5%ポイント押し下げられた。日本の労働力人口が約6900万人であることを考慮すれば、それぞれ約230万人、約110万人、約100万人の潜在的な失業者が雇用者として「温存」されたことになる。この数字は別途計算される「休業者」や「短期労働者」の増加人数と近い。これらの人数は2021年1~2月もそれほど減っていないため、政策効果は足元でも続いているとみられる。
「温存」された潜在的な失業者の存在は、危機時においては「雇用が守られた」と評価することができる一方、長期化すれば必要な労働移動が阻害され、経済全体の生産性の低下につながる。政策の評価において「出口戦略」も重要である。
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