政府は4月25日~5月11日の期間で4都府県に対して緊急事態宣言を発出した。菅首相は記者会見でそのポイントを、「第1に、飲食店における酒類の提供を控えていただく」、「第2に一段と感染レベルを下げるために、人流を抑え人と人の接触機会を減らすための対策」とした。
「人流」を政府はキーワードにしており、これまでの「飲食限定」よりも一段と厳しい措置に進んだというアナウンスメント効果を狙っている。実際に、今回は感染が報告されていない大型商業施設などにも休業要請が行われた。厳しい措置を採らなければならないのは、人々が「自粛疲れ」で感染抑制を軽視するようになったため、というのが政府の考えのようだ。
一方、人々の自粛疲れにはさまざまな要因が考えられる。変異株は感染しやすいとの報道からこれまでの感染対策は効果がないと思われたこと、自粛の長期化によって生活が成り立たなくなっている人や事業が少なくないこと、拙速な「Go Toキャンペーン」や政府・当局者の会食報道などで政府に対する不信感が高まったこと、などである。政府への信頼性が低下したことで、さらに厳しい対策に追い込まれるという「協調の失敗」を引き起こしてしまった点は非常に残念である。
政策の前提として人流データの分析が必要
また、感染者数(検査陽性者数)が増加すること自体が行動抑制にネガティブに働く面があることも厄介である。新型コロナウイルス感染症は、多くの人で発症しなかったり軽症で済んだりする。そのため、感染者数が増加して無症状・軽症の例が増えることで逆に恐怖心が低下する面がある。インターネット上の検索ワードを調べると、感染者数が増える中でも「コロナ」は減っている。
これには日本人の「同調性バイアス」の強さも作用しているのかもしれない。感染拡大の初期には、「他人と同様に対策をすれば安心する」「皆が対策しているので、自分も感染したくない」というように感染抑制を目指す方向に作用したとみられるが、すでに一定程度感染者が増えると「皆も気にしなくなっている」と考えるのかもしれない。
この種の行動経済学的バイアスによる影響は、「自粛疲れ」だけでは説明できない。新型コロナウイルス感染症の危険度や緊急事態宣言の妥当性についての「べき論」はここでは扱わない。ただ、少なくとも政府が経済を犠牲にして感染抑制を目指しても、それに応じない人が多ければ、経済的損失ばかりを増やす可能性が高い。したがって、「人流データ」の分析は避けて通れない。「人流データ(移動データ)」と新型コロナの「感染者数」および「緊急事態宣言を含む各種政策」の相関関係を分析してみた。
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