木村監督からみた金融の世界
――この映画の主人公はもともと、金融業界におり、そこから山の生活へと転向するわけですが、木村監督は金融の世界をどう見ているのですか?
そこは全部調べた。信託銀行のトレーダー室を見に行ったりもした。ただ、見せてはもらえるけど、「ここを撮影に使わせてくれないか」と言ったら、みんな駄目だって言うんだよね(笑)。そこで働いているのは20代から30代くらいが多かった。「なんでこんなにみんな若いんだ」と聞いたら、一瞬の勘が必要だからというんだな。それとパソコン。年をとったら追いつかないってわけよ。
(主人公の)松山ケンイチさんは28歳だったからね。ピッタリだよな。松山さんは青森出身で、インテリに見えるわけだよ。要するに立っている姿が凛としているんだな。そういう意味ではピッタリ。ただ、原作では科学者なんだよね。でも、俺は科学のことはまったくわからない。そこで脚本を書いている瀧本智行が「トレーダーはどうですか」と提案してくれて、それはいいなと思ったわけ。やはり時代の最先端の仕事だからね。
――そこから180度違う世界に飛び込むことになると。一方、木村監督自身は悟郎さん(豊川悦司)になりたいと思っているとのことですが。
俺はほとんど映画界の放浪者だからね。映画界で非常識なところを歩く、完全なる異物だよ。だから劇中で悟郎さんが言っているせりふは原作にはない、ほとんど俺が書いたセリフ。象の話もそうだね。10年前にアフリカのサバンナを放浪したら、1頭の巨象に出会ったと。象は年老いたら、群れに迷惑をかけないために、群れから離れる。俺がいつも言っているのは、「人生、人に迷惑をかけないのが最高の人生だ」ということなんだ。
実際は迷惑をかけっぱなしだけどね(笑)。でも、人に迷惑をかけないで生きていける人が、俺は最高の人だと思うよ。でも、だいたいそういう風には生きられない。だから自分が常日頃、思っているセリフを悟郎さんに言ってもらったんだよ。
――豊川さんの役は、原作ではホームレスでしたが、変更した理由を教えてください。
もともとは年をとった人を考えていたんだけど、豊川さんがやりたいということになったとき、「自分はホームレスですかね」って言っていたんだけれど、体はでかいし、あの顔だから「無理があるよ」って。そこでとっさに放浪者にすることにした。それでもまだ納得しないから、その、今考えたセリフだと言って、さっきの象の話をしたわけ。そうしたらもう固い握手になっちゃってね。俺はとっさの決断とか、瞬発力だけは早いんだよ。
――それこそトレーダーとして仕事ができるんじゃないですか?
よく言うんだけど、俺は理屈で生きた覚えがないんだよ。俺の人生は全部勘だよ。もしかしたらトレーダーは合っているかもしれないけど、実際、トレーダーは難しいんだよね。どの辺まで落ちたら、また上に行くのか。上がったら、今度はいつ落ちるんだといったことを読まないといけない。その判断は、ただ本を読んで勉強するだけじゃ駄目だろうね。
――経験も重要という部分では、木村監督の映画人生と重なるんじゃないですか?
うん。本当にそうだよ。
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