監督をやりたいのではなく、映画を作りたい 木村大作監督が語る映画へのこだわり

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役者のそのままの姿を見せてほしい

――普段は俳優さんに何を要求しているのでしょうか?

「役になりきろうと思わないで、あんたでいてくれ」ということだね。だってそういう人を選んでいるんだから。「あんたはそういう人にピッタリだと思って選んだんだから、何の注文もない」ってことだよ。「普通にやればいいじゃない。もう松山さんはそのままでいいんだよ。28年生きてきているんだから、いろんなことがあったでしょ。そういうその雰囲気でやってくれればいいんですよ」と伝えたこともあった。

豊川さんはもう51歳だったからね。あの人だって人生いろいろあっただろうからさ、そのままでいいんだよ。俺が豊川さんでやりたいって言ったんだから。あの人は今まで暗くて、こわもての男の役が多かったじゃない。でも本当は違うんだよ。彼は関西人だから、あるとき「関西弁を入れていいですか」と言ってきたんだ。「ああ、どうぞ」と返した。だからこの映画では、今までと雰囲気が違うよね。その人が持っているものを全部出させることは、得意なんだ。蒼井優さんが言ってくれたよ。「大作さんは役者を演出していないけど、映画を演出している」ってね。いいこと言ってくれるなあと思った。彼女はものすごく頭がいい人だよ。

(C)2014「春を背負って」製作委員会

――木村監督のこれまでのコメントや、インタビューなどを読むと、被写体である俳優さんがものすごく大好きなのかな、という印象があるのですが。

好きな俳優はそうだね。でも嫌いな俳優はもう極端に嫌いだよ(笑)。俺のキャスティングは、芝居がうまいとか下手とかは関係ない。人としてのたたずまいがいいヤツってことだな。松山ケンイチさんは立っている姿が凛としているよ。真剣に人生を生きているということを、立っている姿だけで表現しているところがある。その最たる人は高倉健さんだけどね。結局は人間なんだよ。俳優って芝居する人なんだろうけど、あんまり芝居をされてもね。

自分が納得するためには口論もいとわない

――自分の仕事を納得がいく形にまとめるためにはケンカもいとわない木村監督のスタイルは、若いビジネスパーソンにも参考にしたいところですが。

俺はいつもケンカばかりだよ。さっきだって宣伝スタッフとケンカをしてきたばかりだしね(笑)。

――近年はケンカをすることを嫌がる人が多い傾向があります。

それは俺にはない。だって自分が思っていることと意見が違うわけだろ。それは言い合っていれば当然そうなる。それを嫌がるということは、「はいはい、わかりました」ということでしょ? そんな人生は俺にはないな。だいたいこの映画だって自分の思いどおりにやっている。唯我独尊。誰の言うことも聞いていない。

プロデューサーにだっていろいろと言いますよ。いっさい言うことは聞かない。でもカネを出しているのはあっちなんだけどね(笑)。そのへんはカメラマンの時代からずっと通っているね。俺が病気をしないのはストレスがたまらないからなんだ。全部出しちゃうね。とにかく言いたいことは言う。それでそのまま進むっていうことだよ。それを駄目だと言うのなら、この映画はやらないということ。

――それも覚悟ですね

そう。俺は監督をやりたいわけではなく、映画を作りたいだけなんだ。それが最優先だよ。ただ、俺はすぐにカーッとなるからね。もうずいぶん前だけど、(映画監督の)降旗(康男)さんに自分の生き方を相談したことあるよ。「俺、すぐケンカになるから、自分の性格が嫌になっちゃうよ」ってね。

毎日のように怒鳴っていたら疲れるしね。降旗さんに「どうしたらいいんですかね」と尋ねたら、「大ちゃんは、いちいち立ち止まりすぎる。世の中にはこういう人もいるんだと、通り過ぎればいいんですよ」と言うんだね。それは「老子」なんだよ。「水のように生きろ」ということだね。降旗さんはそれを実跡しているわけだよ。「通り過ぎないと生きてられませんよ。大ちゃんはいちいち立ち止まるから」。そう言われて、なるほどと思ったから半年ほどそれを実践してみたけど、結局、俺にはできなかった(笑)。

我慢できないから、また立ち止まる。結局、すぐに「お前なんかやめちまえ!」という感じになっちゃう。そういう意味では、そうやっていても今まで生き残ってこられたわけだから、このまま行こうかという気持ちと、もう年も年なんだから、もうちょっと大人になろうかという気持ちと、ない交ぜになっているところはある。でも、最終的には大人になれないなぁ。そういうふうになろうと思えば思うほど、寝むれなくなっちゃうんだよ。それであるとき、「ああもう、やめた、もう今までどおり行こう」となると、スーッと寝られるんだよね。

――健康の秘訣はそういうところにあるわけですね。

ストレートにね。大きな声を上げるということね。これは大切だよ。俺は今まで、本当に入院したことがないんだから。あと5年は大丈夫だろ。80くらいまでは映画をやろうと思っていますよ。

(撮影:梅谷秀司)

木村大作
きむらだいさく
1939年7月13日生まれ。東京都出身。1958年に東宝に入社。撮影部に配属され『隠し砦の三悪人』『用心棒』といった黒澤明の作品にカメラマン助手として参加。1973年に撮影監督デビュー。代表作に『八甲田山』『復活の日』『駅 STATION』『火宅の人』『鉄道員(ぽっぽや)』『北のカナリアたち』など。2009年には監督・脚本・撮影を担当した『劔岳 点の記』が大ヒット。過去、日本アカデミー賞優秀撮影賞21回受賞、そのうち最優秀撮影賞5回受賞。『劔岳 点の記』では最優秀監督賞を受賞した。2003年には紫綬褒章を、2010年には旭日小綬章をそれぞれ受章した。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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