50代に糖尿病で亡くなった男が残す痛切な筆録 「落下星の部屋」が20年以上も続いている理由

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楽しいことと健康。短期的な最優先と長期的な最優先。ある程度の範囲でバランスがとれていれば何の問題もなかっただろう。しかし、そうでなかったから病気になり、病状を悪化させてしまった。それは「意志が弱い」からかもしれないが、それを真正面からさらす姿勢には逆の印象も受ける。

「人工透析」ページの末文をもう一度引用したい。

私を「おろかなやつ」と笑って結構です。でも、あなた自身は絶対に同じ道をたどらないと約束してください。本当にお願いいたします。

複数のミラーサイトを経て、無料ホームページサービスへ

落下星さんの死は掲示板の投稿により読者の知るところとなった。サイト上でも交流していた幼なじみの男性による書き込みだった。

当時の「落下星の部屋」は落下星さん宅のネット回線を提供しているプロバイダーのホームページサービスを利用していたため、遺品整理の過程で回線契約を終了した時点で消滅する運命にあった。しかし、この男性がサイトの内容を丸ごとコピーし、自らのホームページに使っているプロバイダーのスペースに移管したことで生き残る。

2021年2月時点のトップページ(筆者撮影)

そのサイトも今は存在しない。調べてみると、男性自身のサイトが姿を消したのと同じ時期にURLが失効となっている。現在閲覧できる「落下星の部屋」はその後に再移管されたものだ。場を提供しているのは無料で利用できるホームページサービスで、現在まで運営が続いている。

男性とは連絡がとれなかったため想像の域を出ないが、おそらくは何らかの事情で自身のプロバイダー契約を終了することになったときに、「落下星の部屋」の命運を無料ホームページサービスに委ねたのではないかと思われる。自分の手元にあれば確実に消滅するが、無料ホームページサービスに移したらもう少しは生き延びられるかもしれない。その可能性にかけたのではないか。

実際、そうした意図で無料ホームページサービスに移管するパターンはほかにも見られる。それでも多くはホームページブームの終焉とともに、無料サービス自体の撤退とともに姿を消してしまうが、現在まで残っているサイトもごくまれにある。

そのごくまれな存在に「落下星の部屋」はなっている。運はもちろんあっただろう。ただしそれだけでなく、サイトが持つ力も今の結果に寄与しているはずだ。体の機能が失われていく過程をさらしきった文章に多くの読者が引き寄せられ、その力は死後も続いた。その継続的な反響が、管理を引き継いだ男性に無料サービスに命運を託すという行動を促したところはあると思う。

落下星さんは何年先までの読者を想定していたのだろう。生前までか、プロフィールで自身の「賞味期限」としていた2020年頃までか、あるいは何十年ももっと先までか――。とりあえず、2021年2月時点では誰でも読める状態が維持されている。

古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。名古屋工業大学卒業後、建設会社と葬儀会社を経て2002年から雑誌記者に転職。2010年からデジタル遺品や故人のサイトの追跡している。著書に『第2版 デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(伊勢田篤史との共著/日本加除出版)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)、『故人サイト』(社会評論社)など。

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