座間事件が映す「若年層の死因1位が自殺」の闇 20年以上改善されていない日本の大問題

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今年の死亡者数の増加は、新型コロナウイルスの影響が考えられる。そうだとすると、これは「新型コロナウイルス関連死」と見たほうが正しい。

芸能人の自殺が目立つのも、個々の事情を検証する必要はあるとしても、もともと同年齢層の自殺が多かったことを加味する必要がある。

まして、座間の事件が起きたのは3年前のことだ。前述のようにこの年は10歳から14歳までの死因も第1位が自殺である。

ずっとそんな状況が続く日本の現実を突いたのが、この事件だった。希死念慮を抱く若者がこの国には多いことを、少なくとも白石被告は知っていた。そういう人間を操作しやすいという自信も抱いていた。だからこそ、不気味なのだ。

現代の日本の闇を象徴する座間事件

国は、芸能人が自殺すると「厚生労働大臣指定法人いのち支える自殺対策推進センター」が厚生労働省と連名で、「メディア関係者各位」とする通達を出し、報道を過度に繰り返さないこと、自殺に用いた手段について明確に表現しないこと、などWHO(世界保健機関)の『自殺報道ガイドライン』を踏まえた報道に徹するように要請する。模倣して若者の自殺が増える傾向にあるからだ。

しかし、自殺者数が減少傾向にあったとは言え、若者の自殺が死因の第1位であったことは、もう20年以上も改善されないできた。メディアに注意喚起する以前に効果的な対策が実施できていないことの証左だ。

それができないから、今回のような事件を生んだ。現代の日本の“闇”を象徴する事件なのである。

検察は最後に白石被告に死刑を求刑した。判決は12月15日に言い渡される。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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