まず遅まきながら、お断りさせていただくことがあります。当欄の最初にあります著者紹介に「子供を弁護士等に育て上げた」とありますが、これはもちろんのこと(承知していただいているものと存じますが)、私の手柄ではありません。
『気がつけば騎手の女房』という吉永みち子さんの絶妙なタイトルの著書が、昔、話題になりました。本の内容を絶妙に言い得ていた「気がつけば」に感心した思い出がありますが、私はこの言葉をずっと忘れていました。
子供たち4人が生涯、自分自身を食わせるだけの職業に就いたのを見届けたとき、その資格うんぬんよりも私は、「気がつけば4人全員完全自立」という言葉が口について出て、そのことがとてもうれしかったのを覚えています。本当に「気がつけば」で、就職先の名前は知らず覚えず、「食べさせた」ことだけで親の責任を果たした気分でした。
「馬を水飲み場まで連れていくことはできるが、水を飲ませることはできない」の例えで言えば、私は水飲み場にも連れて行かず、水飲み場まで行ける体力だけをつけてやったにすぎません。昔の親は皆、大体このようなものでした。
子離れの時期が社会ぐるみで遅れている
余談ですが、今年の東北大学の2次試験では、仙台駅から東北大学に向かう臨時バスに、試験に同行する父母が増えて肝心の受験生が乗り切れず、試験開始が遅れたというニュースがありました。水飲み場まで連れていくどころか、すきあらば代わりに水まで飲んでやろうとでも考えたのでしょうか。受験生が乗り切れないほどの父母の数には、まず呆れました。
これも今年のニュースですが、最近では入社式に父母同伴は珍しくないそうで、新入社員を上回る父母の参加も普通で、父母を招待する企業も全国的に増えているのだそうです。
ある銀行では両親の間に新入社員を座らせて、手をつなぎ目を閉じて、これまでの人生を振り返らせて両親への感謝の気持ちを、手を強く握り返すことで伝えさせたそうです。赤信号も皆で渡れば怖くないそうですが、ここまでくれば、子も親も企業も異常だという感覚は、共有したいものです。
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