テクノロジーの進歩が問う「生きること」の意味 京大前総長が考える「遊動民」という生き方

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シンクレア氏は、将来予測として、「人間は、時間的余裕ができれば人に優しくなる」と言っています。いまは、生きる時間が限られていて、自分ができることも限られている。その中で、なるべく自分の利益や要求に合うように選択を急ぎ、焦って生きている時代なのです。

だから、他人に目を向けることができない。しかし、自分の人生に余裕ができれば、他人のことを考えて幸福の世界が実現するだろう、と。僕もそのとおりだなと思っています。

イノベーティブな機運を上げる条件

時間の余裕ができて、刺激がなくなると、モチベーションが下がって生産性が落ちるのではないかという意見がありますが、僕はそこで重要なのが「環境づくり」だと考えています。

例えば、KPI(重要業績評価指標)を掲げ、皆がそのために邁進するなどというのは、実は生産性を下げることでしかありません。いくら「生産性を上げろ!」と言っても、オリジナルでイノベーティブなものを生み出すことは、お互いに刺激し合い、新しいものを作ろうという機運がそこになければ、実現しないものです。

その機運を上げる条件は、まず、自分と相手、自分と仲間たちは、違う人間なんだということを前提としています。自分も相手もまったく同じという前提に立ってしまったら、誰が考えても同じ結果にしかなりませんよね。それではつまらないし、話し合う必要もなくなります。

もっと多大な個性を発露して、話し合い、協働する中において、はじめてお互いが考えていなかったことが新しく生まれる。その瞬間がいちばん楽しく、ワクワクする時間なんですよ。そこを自覚して、この機運を高める環境を整えなくてはなりません。

それから、相手に軽々しく同調してはいけません。自分独自の考えをきちんと主張する習慣を身に付けなくてはなりません。そして、いい問いを作っていく。それができれば、未知の山が見えてきます。すると、登ってみたいという衝動、つまり、モチベーションを上げることにつながるのです。

僕の師匠は、富士山が大嫌いでした。「あれは孤峰だから、登ってしまったらもう後は何もない。だが、日本アルプスやヒマラヤは、登ればまた未踏峰が見えてくる。その情景が素晴らしいんだよ」と。

いま、日本も欧米も、医学がとても力強い。つまり、医学は未踏峰の探検の時代に入っているわけです。だから次々に新しい理論、新しい世界が見えてくるのです。

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