アベノミクス失敗の本質と新政権がすべきこと 元日銀審議委員の木内登英氏の語るポスト安倍

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木内登英(きうち・たかひで)/1963年生まれ。1987年早稲田大学政治経済学部を卒業、同年野村総合研究所入社。一貫して経済調査畑を歩む。1990年野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年野村證券に転籍し、2007年経済調査部長。2012年7月~2017年7月、日本銀行政策委員会審議委員。現在、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『決定版 リブラ―世界を震撼させるデジタル通貨革命』(2019年、東洋経済新報社)、『金融政策の全論点』(2018年、東洋経済新報社)、『異次元緩和の真実』(2017年、日本経済新聞出版社)など著作多数。
9月14日、自民党総裁選が行われ、安倍晋三首相(自民党総裁)の後を継ぐ首相が決まる。2012年7月から2017年7月まで日本銀行審議委員を務め、アベノミクスをつぶさに見てきた野村総合研究所の木内登英・エグゼクティブ・エコノミストに、アベノミクスの評価と次期首相の経済政策における課題を聞いた。

――木内さんは2012年7月~2017年7月まで日本銀行審議委員で、たびたび黒田東彦総裁の提案に反対意見を述べていらっしゃいました。今、改めてアベノミクスを総括していただけますか。

アベノミクスに明確な政策効果はなかった。雇用を増やしたと言う人が多いが、雇用の回復は世界経済が長期に回復してきたことに支えられた。世界経済の回復によって金融市場もリスクテイクをする局面となり、円安株高が進み、それがまた経済に追い風になった。アベノミクスの経済政策で国内経済が大きく改善したとは言えない。多くの人が過大評価していると思う。

世界経済の回復による恩恵を長期に受けたことが長期政権を生んだといえる。2019年からすでに経済は減速しており、コロナショックがそこにぶつかった。このことが、政権を終わらせる底流にあったとも思う。

アベノミクスの3本の矢のうち、1番目の金融政策と2番目の財政政策は弊害が大きかった。3番目の成長戦略は本来やるべきことだったが、効果を出せなかった。

問題は「デフレ」ではなく「潜在成長率」

アベノミクスの特徴は「デフレ克服」を柱に据えたことで、これが間違いだった。真正デフレなら問題だが、日本のリーマンショック以降の物価下落は平均して0.2~0.3%とわずか。物価には統計上のゆがみがある。とくに家賃統計は住宅の劣化を考慮していないので、物価に下方バイアスがかかる。これを考慮すれば、実態として物価はほぼゼロだった。

「デフレ脱却」を政策の中心に据えたことで、「需要創出」が必要だということになり、日本銀行はインフレ率2%の目標を掲げて金融緩和を続けた。政策金利がゼロ金利制約にぶつかっている中で、国債を大量に買い続け532兆円、株も33兆円積み上げて日銀のバランスシートは膨張した。

金融政策の弊害は、今ではなくこれから出てくる。金利の引き上げが必要になったら、債務超過になるリスクがある。株価が下がった場合もそうだ。日銀が公的資金を受けるようなことになれば、独立性は失われ、通貨の安定を損なうことにつながる。金融機関の体力を必要以上に削いでいることも金融システム不安の引き金になりうる。最も大きな弊害は財政規律の弛緩だ。政府が安心して国債を発行できる環境を作ってしまった。そうした中で、将来世代へのツケ回しが続いた。

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