アベノミクス失敗の本質と新政権がすべきこと 元日銀審議委員の木内登英氏の語るポスト安倍

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3つ目はサービス産業の生産性向上だ。コロナで大きな被害を受けたのは、小売り、飲食、観光関連、宿泊などで、長らく生産性が低いと指摘されていた業種だ。平均するとその生産性はアメリカの半分以下だ。日本はクオリティが高く、それが反映されていないという議論がよくあるが、その部分を調整しても、差は1、2割しか縮まらない。

今回のことで人々の消費行動が変わってしまい、感染リスクが下がっても100%元には戻らない。今年は持続化給付金、雇用調整助成金など政府が資金をつけざるをえないが、感染が収まった後も国民の税金で助け続けるのは非効率で、構造改革を進める必要がある。一部は業種の転換と雇用の転換が求められる。これを通じて、低かったサービス産業の生産性も改善されることになる。

労働生産性は、アメリカとのギャップを半分埋めると4.9%ポイント改善する。日本の労働生産性の上昇率はゼロに近づいているので貴重だ。今は、企業内のOJTやOff-JTなどの機会が減り、投資も少ない。労働者の教育、職業訓練などにお金を使っていく必要がある。

ただ、これは理想論で、従来の金融・財政政策を脱しきれない懸念もある。金融政策への期待は下がっているが、日銀に金利を低く抑えてもらうことで、財政拡張がしやすくなってしまっている。コロナ禍の下で、必要な財政出動はあるが、通常の60年の国債償還となると、コロナ問題を知らない後の世代にツケを回すことになる。今回のコロナ対応の緊急財政出動については、財源の償還を10年で行うといった工夫が必要だ。

FRBもECBも有効な手立てを失っている

――FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は「ある期間の物価上昇率が平均して2%になればよい」という平均2%目標を新方針として打ち出しました。

私は物価目標にこだわるのはリスクが高いと思っているが、世界の中央銀行はインフレ期待の安定が重要だという意識が強い。アメリカは、PCEコアインフレ率(個人消費支出に関連するインフレ率)が平均で1.4%、CPIコアインフレ率(消費者物価指数のインフレ率)で1.6%とそれなりにあるので、FRBもまだ2%を達成したいし、できると思っているだろう。

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ただ、そのための思い切った政策があるかといえば、最終的には方針を示すだけで、具体的な手段は出てこなかった。マイナス金利政策やイールドカーブコントロール政策など、いろいろ議論したけど、出てこなかったのは、有効な政策は残されていないということの表れだ。

ゼロ金利制約の下では物価の目標を変えないとどんどんインフレ期待が下がるという恐怖感がある。武器が限られている中で、2%を割り込むことは容認しないという意思を示した。ECBも似たような方針を示すのだろう。効果は薄いと思うのだが。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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