アベノミクス失敗の本質と新政権がすべきこと 元日銀審議委員の木内登英氏の語るポスト安倍

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景気の良いときに財政健全化を行わず、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化は先送りになっている。財政政策はつねにやっていたわけではなく、赤字幅は縮小したという主張があるが、これは間違いだ。景気の悪いときには財政拡張が必要になるので、景気の良いときに財政健全化を進めておかないと、景気の1サイクルごとに財政が悪化していく。デフォルトしないから問題ないという意見があるが、デフォルトしないということは、誰かが必ず返し続けることを意味する。将来世代が使いたいときに使えない。

――結局、「デフレ脱却」もできないのに、こだわり続けました。

「デフレ脱却」という目標を設定したこと自体がずれていた。日本経済の問題点は経済の実力が落ちていること、すなわち潜在成長率が下がっていることだ。潜在成長率が落ちると、インフレ期待も下がってくる。やるべきことは構造改革を行って労働生産性を上げるという供給サイドの改革だった。成長率が高まるという期待が持てれば、企業は設備投資や賃金の引き上げを行うので、インフレ率も上がってくる。

アベノミクスでは大本である潜在成長率の引き上げを目標にせず、結果であるインフレ率のほうを目標に設定し、財政赤字を積み上げて将来に負の遺産を作ってしまった。そうすると、将来の成長に期待が持てず、民間需要が弱くなる。企業は必要なR&Dや設備投資をせず、最低限必要な能力増強しかしないので、イノベーションが落ちて労働装備率が下がり、労働生産性が落ちてくる。賃金も上げられない。経済の潜在力をより落とすことになってしまう。実際、日本の潜在成長率は下がり続けている。

つねに政治的で、「やってる感」だけに終始した

第3の矢の構造改革による成長戦略は潜在成長率の引き上げを狙ったものだが、ここでの問題点は、焦点が定まらなかったことだ。

構造改革は効果を出すまでに時間がかかるのに、必要なテーマに絞り込んでじっくり取り組むことをせずに、毎年毎年テーマを変えた。地方創生、働き方改革、教育改革と。経済政策の効果よりも政治的なウケを狙ったからだろう。これだけの長期政権であり、テーマを絞り込んでいればもう少し成果を出せたのではないか。

それぞれの政策においても、目標が定まらなかった。例えば、働き方改革で残業削減や同一労働同一賃金が掲げられた。これは働く人の環境改善や正社員と非正規の平等を目指すリベラルな政策だったのか、それともこれによって生産性を上げることを目標にする保守的な政策だったのか。両方からの政治的要求に対し「やっています」と言えるようにしていたため、企業からすると、何を目標にしているのかが見えなかった。

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