日本が病気の予防を軽視してきた根本的な事情 エビデンスに基づいた政策立案が今こそ必要だ

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佐藤:「エビデンス」は、有無のほかに「強い・弱い」という視点でも議論ができます。政策を進めていく側として、どの程度のエビデンスの強さを求めていく必要があるのかを考えなければなりません。

エビデンスの強さという観点では、ランダム化比較試験(RCT=Randomized Controlled Trial)およびそれらの結果を複数統合したメタアナリシスにより得られたエビデンスが最も強いとされています。これは研究の対象者をランダムにグループに分け、一方には評価しようとしている治療や予防のための介入を行い、もう片方にはそれとは異なる治療を行って検証するものです。

今年度から厚生労働省・経済産業省では予防や健康づくりの大規模実証事業を行います。

「認知症にどういう取り組みが効くのか」「糖尿病の重症化予防にどういう取り組みが効くのか」「特定検診や保健指導というのは『健康アウトカム』に本当に寄与しているのか」などについて評価をします。このようなことについてランダム化比較試験まで行うことは難しい側面もありますので、どこまでこれを追求していくのが現実的か。ここは、政策立案をしていく側としては悩みどころです。

政策立案者と研究者が役割を分担するのが望ましい

津川:これは非常に重要な議論だと思います。政策立案者は研究のやり方などまで細かく指示を出さずに、大きな方向性を決めて、あとは研究者に任せてしまうほうがよいと思っています。

知恵を絞るのが研究者の仕事です。政策立案者がゴール設定だけしてくれたら、あとは頭を使ってそこまでの道筋やそれに必要なエビデンスをつくるための研究ができる研究者は必ずいます。

どうしてもすぐに答えを求めがちになりますが、答えはAでもBでもなく、“まだわかっていない”という場合もあります。わかっていないところを、データを解析・検証して答えをみんなでつくっていくということが、これからの時代の政策のつくり方だと思います。

新型コロナウイルスでいえば、いろいろなことがわかってきたものの、それでもまだ毎週のように新しい知見が明らかになっているような状況です。答えがない中でどうやってみんなで答えを探していくか。政策立案をされる方々も、その人たちの判断材料となるエビデンスをつくるわれわれ研究者も、そうやって答えを探していき、一緒に対話を繰り返しながら活動することが必要です。

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