日本が病気の予防を軽視してきた根本的な事情 エビデンスに基づいた政策立案が今こそ必要だ

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そのような中で、世代間での意識の違いを乗り越えていくのは、かなり難しい問題です。「財源をどこから持ってくるか」「税金を増やすのか」「保険料を高くするのか」というような話は、「誰かが損をして誰かに負担をしてもらう」というように、ネガティブな話になりがちです。国民の年代によって、それに対する感覚はだいぶ違う。実際、自分の家計に影響を与えることですので。

佐藤:そうですね。社会保障の議論は、「誰が負担し誰が給付をもらうか」という、給付と負担の見直しの議論になりがちです。給付と負担の見直しの議論になると、必ず世代間の対立になります。

それを超えていくという観点で、“病気の予防”や“健康づくり”に社会保障の力点を置くことで、個人の健康増進を図り、長く元気に活躍する人々を増やしていく、併せて、予防や健康づくりに民間の力を活かしていくということで、ヘルスケア産業を新しい成長産業にしようという、三方良しの明るい議論をしたいと考えました。

津川:イノベーションで社会保障だけでなく、給付と負担の話まで解決しようという考え方は斬新ですね。佐藤さんは「明るい社会保障改革推進議員連盟」(明るい社会保障議連)の事務局長を務めておられますが、この議連が今後の社会保障施策の中でどんな役割を担うのか、そのビジョンについてお聞かせください。

エビデンスを蓄積し、活用する

佐藤:大きく3つの柱があります。

1つ目は、医療の分野と比べると弱い、病気の予防や健康づくりのエビデンス(科学的根拠)をしっかり蓄積し、活用するような基盤をつくることです。国民の健康増進と社会経済効果(例えば医療費の適正化など)を両立させる効果的な予防・健康づくりを推進したいと考えています。

2つ目は、健康保険事業の運営主体である保険者(国民健康保険や企業の健康保険組合など)がエビデンスに基づく病気の予防や健康づくりに積極的に取り組む環境整備を行うことです。具体的には、保険者や保険の加入者の取り組みに応じて付与するインセンティブ(報奨)制度を整備することです。

3つ目は、社会全体で病気の予防や健康づくりを推進することです。保険者だけでなく企業が従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営」を進めたり、かかりつけ医が社会的課題にも目を向けながら病気の治療をしていったり(いわゆる「社会的処方」)、街づくりを通し生活環境も含めて、自然と健康になれるような環境をつくっていくことです。

私はエビデンスに基づいて病気の予防や健康づくりを進めていくことが最も重要だと考えています。医学会では、病気を治療することは人の命に関わるので、EBM(Evidence-Based Medicine:科学的根拠に基づく医療。個々の患者のケアに関わる意思決定するために、最新かつ最良の科学的根拠<エビデンス>について一貫性を持って、明示的な態度で思慮深く用いること)という、しっかりとしたエビデンスのもとで治療します。

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