自死で遺された人にこそ「心のケア」が必要だ 心理的な影響を軽減する「ポストベンション」

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気持ちは目に見えず、個人差もあるためにどうすればよいかの正解はありませんが、まずは、感情に波が生じている状況下で、自分の思いを吐き出せる場を作ることが重要です。

とはいえ、話をする場は安全でなくてはなりません。2次被害といわれるように、話したことによって、より一層傷つくこともあるからです。2次的トラウマとも呼ばれ、さらに深刻な事態を引き起こします。

ですから、話を聞く立場になった方は、そのままの気持ちを受け止めるにとどめ、よかれと思ってアドバイスなどをしないことが大切です。どんなに適切だと思えることも、相手にとっては、そうとは限りません。さらに深く傷つけてしまうことになりかねないのです。また、話したくないときに、無理に話させることは逆効果にもなります。

不幸にして身近に自死が生じた際に、遺された方々に及ぼす心理的な影響をできる限り軽減するための対策のことをポストベンション(第3次予防)と言います。職場などでは自死が起きると連鎖が起きてしまうこともあり、チームを組んでカウンセリングにあたることで予防する措置を取る場合もあります。いずれにせよ、周りの方々の受容的なサポートが求められます。

「他罰」か「自責」のどちらに思考・行動傾向があるか

また、20年近い日々の相談業務の中で、私がとくに気をつけていることをお伝えします。自死を完全に防ぐことはできなくても、危険を察知するためには、1つの有効な方法だと思っています。

それは、相手と話をしていく中で「他罰」か「自責」のどちらに思考、行動傾向があるかです。「あいつのせいだ」「運が悪い」などと、ことあるごとに誰かや環境に対しての怒りや攻撃が見られる場合は、自分以外のものにある意味執着しています。エネルギーが発散型なので、気の済むまで毒を吐いてもらうことである程度の効果が見込めます。

反対に、「自分のせい」「期待に応えられない」など自分を責めてしまう傾向にある人は、思いつめると危険なタイプです。なので、この傾向がある相談者に対しては、フォロー体制を強化するようにしています。自責傾向がとくに強い方は、どんな話になっても一貫して、「自分に問題がある」に到達します。

例えば、「そうは言っても上司の◯◯さんの言い方も悪いと思うのだけれど、どう?」や「あなたは十分に頑張っているよね?」といった作為的な問いかけにも一切なびきません。極端に言うと、人のせいにしない、環境のせいにしない、責任のすべての所在が自分にあり、その自分がダメなんだと、その点に関しては非常にストイックな面を示すのです。

「愚痴る」は、精神衛生上、とても大切なことです。誰かや何かのせいにして泣きごとを言える場はとても大切です。完璧にこだわりすぎず、ある程度でOKという気持ちと、気持ちを許せる(ダメダメな自分も見せられる)場や相手があることは、楽に生きるための要因の1つです。しかし、コロナ禍で、ちょっとした人とのつながりが希薄になっていることもあったり、親しい身近な人だからこそ言えないということもあるかもしれません。

そんなときは、公共の相談機関、加入している各種保険のサービスや職場の福利厚生で付帯されている相談ダイヤルなども積極的に利用してみましょう。

ポイントは、自分が利用できるサービスを確認しておくことと、いざというときに相談ができるように、何でもないときに相談をしてみることです。

大野 萌子 日本メンタルアップ支援機構 代表理事

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おおの もえこ / Moeko Ohno

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)がある。

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