10年以内に「日本国民全員を踊らせる」男の告白 「SHOE DOG」に唸るダンス界の革命児FISHBOY
僕はアディダスの歴史も調べましたが、2社を比較すると面白いですね。アディダスは、創業者の息子であるホルスト・ダスラーがスポーツ・ポリティクス、スポーツ・マーケティングの手法で、利権を持つ団体の中へと政治的に入り込んでいきました。
人脈を重視した営業ですが、その対象はFIFA会長、IOC会長といったスポーツ界の大物だったわけです。スポーツを巨額のビジネスに押し上げていったそのさまには心が震えました。
一方のナイキは、実際に靴を使う選手たちの中へと入っていく、ランナーズ・ファーストの精神です。そして、広告のセンスのよさを前面に押し出すことで広めた。大きな権力に対して、アート性で下克上を仕掛けたところが、かっこいいなと僕は思うんです。
アート性とビジネスは、バランスが大事ですよね。ダンスの分野も、盛り上がりを見せる中でビジネス化が進みつつあります。ダンサーがスポーツブランドと契約することも出てきますし、メジャースポーツのように取り上げられる時代が、向こう10年でやって来そうだという空気を肌で感じてもいます。
今後のダンス界は、かつてのスポーツ・シューズ業界のような軌跡をたどるのではないでしょうか。しかし、ビジネスという目的だけではどうしても立ち入れない、ダンサーたちの領域というものもあります。アート性です。僕はそこを大切にしたいと考えているので、ナイキの手法は参考になります。その力で、もうすぐそこまで来そうな、ダンスがランニングのように親しまれる世界を創り上げてみたいんです。
すべての人にダンスを
僕には、「全国民ダンサー化」というミッションがあります。ダンスを、老若男女、年代を問わず、あらゆる人が踊ってくれるようにしたいのです。
きっかけは、2009年の世界大会で優勝したときの出来事でした。日本に帰国した際、ダンサーからは祝福の言葉があるものの世間からはなんの反響もないことにショックを受けたのです。実際、当時の日本では、現在と比べるとダンスへの関心は非常に薄い状況でした。
現実を目の当たりにしたとき、「このまま何も考えずにダンスを続けていていいのだろうか」という考えがめぐりました。優勝するため、かっこいいダンスをするためということだけにフォーカスしてきたけれど、このまま大会で闘うことだけに挑戦し続けても、その挑戦に世間が興味を持つ世の中にしなければ、僕にとってもこれからのダンサーにとっても本当は価値があるのに意味を少なく感じてしまう人生になってしまうのではないか、と。
だったら、状況を変えるためにアクションを起こしたい。「ダンスと距離のある人たちにもっとダンスを広めなければ」と強く思い始めました。それによって、自分自身のプレイヤーとしての側面は薄れていくかもしれない、でもやるべきだと覚悟したのです。
とはいえ、活動は本当に地道なものです。ナイキは「走ることが健康につながる」というメリットを提示して人々を走らせました。僕も、とくに30代以上の世代に対しては、踊るメリットを提示して、きっかけを作ることが重要だと考えています。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら