大リーガー日本復帰で再燃「田澤ルール」の是非 世界一にも輝いた名選手を縛る"足かせ"

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こうしたアマチュア球界側の口吻からは、「田澤ルール」に対する強い不信感が見て取れる。レッドソックスは田澤純一の実力を高く評価し、メジャー契約を結んだ。

田澤は翌2009年、レッドソックス傘下のAAクラス、AAAクラスで順調に実績を残し、8月7日にはMLBに昇格。敵地ヤンキースタジアムでのヤンキース戦で、延長14回裏に斉藤隆の後を受けてマウンドに上がる。

メジャー昇格最初の対戦は松井秀喜だったが、中直に打ち取った。15回裏にはデレク・ジーターに右前打、後続2人は退けたものの2死1塁で、アレックス・ロドリゲスに左中間にライナー性のサヨナラ本塁打を打たれ、負け投手になった。

1年前は社会人野球で投げていた田澤が、MLBの大スター、「A-ROD」ことアレックス・ロドリゲスと対戦する。敗れたとはいえ、真っ向勝負を挑んだ23歳の若武者ぶりに、日本のファンは熱狂した。

田澤純一は2010年に右ひじの異状が見つかり、側副靱帯再建術(トミー・ジョン手術)を受けた。2011年に復帰してからは救援投手となり、9回担当のクローザーの上原浩治につなぐ8回担当のセットアッパーとして一時代を築いた。2013年には、キャリアハイの25ホールドを記録。ポストシーズンでも活躍し、レッドソックスの世界一に貢献した。

2017年に2年総額1200万ドルでマイアミ・マーリンズへ移籍。以後はデトロイト・タイガース、ロサンゼルス・エンゼルス、シカゴ・カブス、シンシナティ・レッズとチームを転々としていた。

30歳を過ぎてからは球速も衰え、打ち込まれることも多くなり、マイナーでプレーすることも増えた。それでも、田澤は当初の期待に違わず、一線級の投手として活躍したといえるだろう。

一定の抑止力はあった「田澤ルール」

「田澤ルール」は、アマチュア球界からアメリカへの人材流出を食い止めるうえで、一定の効果はあった。

田澤の後、このルールが適用されると見られるのは、2018年8月に社会人野球のパナソニックからMLBアリゾナ・ダイヤモンドバックスとマイナー契約を結んだ右腕投手・吉川峻平だけだ。吉川の場合、「プロ球団と契約するには締結日以前に登録抹消届を提出する」というルールを破り、提出前に正式契約を結んだために、アマチュア野球への復帰資格も剝奪された。

ほかの選手はMLB挑戦の意向を持っていても、NPBのドラフト指名に従った。

2012年のドラフトの目玉の一人だった、花巻東高の大谷翔平がMLB挑戦を表明。このままMLB球団に入団すれば「田澤ルール」が適用される可能性があったが、日本ハムが指名を強行。栗山英樹監督以下、日本ハムのスタッフが大谷を説得し、翻意させた。

このとき、日本ハム球団が説得に使った資料が公開された。筆者の手元にもあるが、ここには「田澤ルール」の記述はなかった。

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