日本がコロナ2波に勝つ科学的で現実的な戦略 鎌江東大教授が説く社会的価値のある医療政策

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新型コロナ対策の予備費は10兆円と巨額、有効に使うべきだ(写真:ロイター)
コロナ感染拡大の第1波では日本は欧米に比べて、また毎年の季節性インフルエンザに比べても人口対比の死者数を少なく抑え込むことができた。しかし、第2波への不安がある。東京大学公共政策大学院の鎌江伊三夫特任教授は、医療政策は科学的根拠に基づき、かつ、社会的価値も考慮したものであるべきとして、第2波への具体策を提言している。緊急事態宣言は必ずしも出す必要はなく、大量のPCR検査による集団スクリーニングは科学的根拠がなく不適切だという。鎌江教授に今後のあるべき政策について話を聞いた。

科学的根拠と社会的価値に基づく政策であるべき

――新型コロナの感染拡大が始まってからの政府の対応やメディアの報道について、キヤノングローバル戦略研究所のコラムでさまざまな問題を指摘されています。

私の専門は医療政策・技術評価で、まず政策は科学的根拠に基づいたものでなければならないと考える。それに加えて、社会的価値があるかどうかで政策の妥当性を判断していく。例えば、臨床試験で有用性が科学的に証明されたとしても、それが社会的に求められるものかどうかという観点でも議論しなくてはならないということだ。

患者にとっての価値が重要であり、すべての国民は私も含めて患者予備軍なので、それは国民にとっての価値ということになる。社会的価値に基づく医療を実践していくということが基本。今の新型コロナへの対応は「社会的価値に基づく医療」を実現できるのかの試金石だ。その意味で感染第1波を通じていろいろな問題が噴出したと思う。

その1つが誤った認識に基づく大規模検査を求める声だ。一般の人が検査に期待し過信してしまうのは無理もないが、驚いたのは、検査の精度の問題についてのきちんとした説明や検査を過信することへの警告が、専門家からも発せられなかったことだ。専門家会議はクラスター対策班の北海道大学西浦博教授の疫学モデルによる感染拡大の予測の話が中心に議論され、その前提となる検査について科学的な説明がなかったように思える。

――とりわけテレビ番組では説明のないままにやみくもな検査論を喧伝するものがありました。

テレビでコメントする専門家も、検査を大量にすると陽性者が大量に出て医療崩壊を起こすといった話をする人はいたが、偽陽性や偽陰性の問題はほとんど議論していなかった。メディアの報道を通じては、専門家といわれる医療関係者でも多くの人が検査の科学を理解していないように見えた。検査では「病気の有無」はわからず、病気の「有無の可能性」がわかるだけだ。100%完全な検査は存在しない。

検査を受ける人の観点からは陽性適中率(以下、注参照)あるいは陰性適中率がどのくらいかが問題となり、検査の正確性という点では感度(真陽性率)、特異度(真陰性率)が重要となる。症状のある人に治療のためにPCR検査を行う場合は、陽性適中率や陰性適中率が90%を超えていれば実臨床上は問題ないが、対象集団が多くなると、偽陽性や偽陰性に該当する人が無視できない数になってくる。

(注)検査ではある程度のエラーが起き、                   ①真陽性(陽性で実際に感染している)②偽陰性(陰性だが実際は感染している)③偽陽性(感染していないのに陽性)④真陰性(感染しておらず陰性)の4つが出る。
陽性適中率:陽性のうちの実際の感染者の割合=①÷(①+③)
陰性適中率:陰性のうちの非感染者の割合=④÷(②+④)
感度(真陽性率):感染者数のうち検査で陽性と出る割合=①÷(①+②)
特異度(真陰性率):非感染者数のうち検査で陰性と出る割合=④÷(③+④)
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