――第1波のときの対応について良い点・悪い点を検証しないと、このままでは感染者が増えると緊急事態宣言を繰り返すことになりそうです。
それでは経験に学べてないのでいかにもよくない。経済か医療かといった、いわば神学論争を続けるのでは第1波の繰り返しになってしまう。
――そうした恐れから、大規模検査をやれという極論に突っ走ってしまう人たちが多いんですね。
コロナは危険で怖いからと、全員で一方向を向いてしまって突っ走る傾向があるようだ。SARSの経験がないので、台湾や韓国のようにPCR検査をたくさんやれる体制になかったのは確かだが、そこで検査体制の不備を理由に政府批判ができあがってしまうと、そもそも検査をそんなにやるべきなのかどうかといった冷静な話や、検査科学の常識も通用しなくなったようだ。テレビでは、一部の専門家も交えて大規模検査の大合唱が見られたが、そういった声が正しかったのかという検証も必要かと思う。政府批判をするにしても、科学的根拠を踏まえないと、正当性がないことになる。
アメリカはパニックになっている
――そして、ハーバード大学の倫理学センターでも、大規模検査をやって隔離せよという提言が出てきました。日本ではありがちですが、それを受けて、鹿島平和研究所から経済学者や安全保障関係の専門家の一部が、同様の案を緊急提言といって出しました。
ハーバード大学の提言にあるように1日500万件、あるいは1000万件も検査をやれば、毎日何十万人もの偽陽性や偽陰性者を出すのに、「安心」のために「隔離」と言っている。しかも、感染症の検査の場合、たとえ陰性結果が100%正しいとしても、それは検査を受けた時点での陰性に過ぎず、検査後に感染しない「安心」を何ら保証しない。
胃がん発見のための胃カメラ検査は年1回程度受けていればまず安心といった一定期間の保証を与えてくれる。しかし、感染症の検査はまったく異なる。例えば、検査を受けた時点では感染していなくて、検査直後に知らず感染した場合、2日後の検査結果が陰性であっても、その判定結果は無意味だ。
人類が人権概念を確立してきた歴史の中で、アメリカの独立宣言は宝だが、その知性を代表するはずのところから、およそ人権意識に欠ける提言が出ることは驚くべき状況だ。アメリカでは、日本の指定感染症のように検査陽性すなわち隔離ではないようなので、偽陽性の場合の人権問題は薄まっているかもしれない。そうだとしても、本来、倫理学センターは最も人権に敏感でなくてはならないはずなのに。
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