日本がコロナ2波に勝つ科学的で現実的な戦略 鎌江東大教授が説く社会的価値のある医療政策

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PCR検査の正確性については、まだ、国際標準のエビデンスがないが、感度70%、特異度は99%という想定値がリスク分析上妥当ではないかと考えられる。

だが、感度95.0%、特異度99.9%とさらに高い数字を仮定しても、1000万人について検査を行えば、有病率が10%の場合で偽陽性は9000人、偽陰性は5万人出る。有病率が50%の場合で偽陽性は5000人、偽陰性は25万人出る。

【2020年6月23日追記】偽陽性、偽陰性の計算を追記しました。

(注)有病率10%、50%の場合の計算は以下。
・有病率が10%の場合、1000万人中の感染者は100万人、非感染者は900万人。 
想定の偽陽性率は 1-0.999=0.001, 偽陰性率は 1-0.95=0.05。よって、偽陽性は900万人×0.001=9000人、偽陰性は100万人×0.05=5万人
・有病率が50%の場合、1000万人中の感染者は500万人、非感染者も500万人。
よって同様に、上記の偽陽性率と偽陰性率を用いると、偽陽性は500万人×0.001=5000人、偽陰性は500万人×0.05=25万人

これでは、多くの人が誤って感染していると判断されて無用な差別や偏見を受けることにつながりかねない一方、膨大な数の感染者が陰性結果に安心して日常生活を続け、ウイルスの拡散を見逃す結果になる。そうした検査の限界を踏まえないと政策は議論できない。ところが、これを理解しないままに、PCR検査による集団スクリーニングを主張する人が多かった。

間違いは基本的なところから起きていて、政府や自治体、NHKの報道でも日々グラフを出して「感染者数」を発表しているけれど、科学的にみれば明らかに間違い。正確には検査の「陽性者数」だ。行政も「感染者数」と言っているので、誤情報があふれてしまう。

医療においては「人権」は絶えず意識する問題

もうひとつ、私が驚いたのは、医療の問題を議論しているのに、語る人々の人権意識が非常に低いことだ。検査の精度に問題があるということが理解されれば、次には偽陽性で隔離されてしまった人の人権問題にどう対処すべきかが当然、テーマになるはずだ。ところが、平時なら人権に対して敏感であるかのように話すテレビのコメンテーターも、「精度の問題はさておいて」といった軽い調子で話す場面が見られた。

鎌江伊三夫(かまえ・いさお)/京都大学工学部情報工学科、神戸大学医学部医学科卒業。ハーバード大学公衆衛生学博士(Health decision Sciences)。 京都大学医学部附属病院総合診療部助教授、神戸大学大学院医学系研究科教授、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授を経て、現在、東京大学公共政策大学院特任教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。専門は医療政策・医療技術評価。(写真:本人提供)

医療の専門家としてテレビに出ている人もその点、あまり変わらないように見えた。医療は深く人権問題と関わっている。例えば、臨床における医者と患者との関係において、今流にいえばパワハラがあってはいけないとか、果たしてその医療は本当に患者のためのものなのかとか、絶えず人権は問題になる。

――結核やハンセン病など過去にも隔離は問題となってきました。

公衆衛生ではそこのジレンマがとくに強く起きる。最大多数の最大利益を考えると個人の利益の毀損が起こる場合がある。そこをきっちりと議論して、私権制限を最小にしていかなければならない。仮に、大規模に検査をしたいと政治家が言い出したとしても、「偽陽性の人が大量に出てそういう人を隔離すると人権問題が生じる、果たしてそこまで必要ですか」と問いかけるのが医療関係者の本来あるべき姿だ。

私は「大規模な検査に基づく隔離」などという提案には一貫して反対の立場を述べてきた。科学的根拠がないという意味でも間違いだし、社会的価値という観点でも数兆円のコストがかかるのに費用対効果が見込めず、人権侵害が起こる点でも間違っているからだ。

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