「お前らなんて奴隷みたいなもんだろ」
都内の公立病院で調理補助の仕事をしていたハルオさん(仮名、36歳)は、職場の調理師からこう言われ、胸ぐらをつかまれた。ハルオさんは病院が外部委託した民間事業者の契約社員。これに対し、調理師は病院が直接雇用した公務員である。とんでもない暴言だが、年収200万円の委託先労働者が奴隷としか言いようがない格差の下で働いていることもまた事実だった。
典型的な「ブラック職場」
問題は賃金水準だけではないと、ハルオさんは言う。まず、会社から最初の3カ月間は社会保険はなしだと言われた。理由は「すぐに辞める人がおり、(加入させると)入退社の手続きが煩雑になるから」。意味不明だし、違法である。ハルオさんはその後、1年以上にわたり社会保険未加入の状態を強いられた。
また、始業前の着替えや手洗いの時間は“ただ働き”。専用の白衣や帽子を身につけ、規則にのっとった手洗いを済ませるには、どんなに急いでも10〜15分はかかる。過去の判例によれば、業務に必要な着替えなどは労働時間とみなされるが、会社はこれを無視。始業時刻の30分前には出勤し、準備を済ませるよう指示していたという。
時給労働者にとって、毎日30分のただ働きは痛い。加えて30分間の休憩もなかなか満足には取れなかった。休憩に入る直前、決まって何百人分もの食器の配膳やコメの計量など、短時間では到底終わらない仕事を振られるからだ。
ハルオさんの告発は続く。
「労災隠しもありました。職場に来る途中で車にぶつかって捻挫したという社員がいたのですが、会社は『労災にはならない』と言いくるめた挙句、そのまま働かせていました。あと外国人労働者の待遇もひどかったです。彼らは私たちより給料が低いうえ、室温が40度を超えることもある洗い場に配属されることが多く、熱中症で倒れる人もいました」
外国人労働者は、中国や韓国、フィリピン出身者が多かったという。あるとき、発音が聞き取りづらい外国人に対し、正職員の調理師が「国へ帰れ!」と怒鳴りつけているのを聞き、ハルオさんが間に入って止めたことがある。以来、この調理師から目の敵にされるようになった。冒頭の“奴隷発言”の主は、このときにもめた調理師だという。
典型的な「ブラック職場」で、ハルオさんが最もひどいと感じたのはハラスメントだった。
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