理容師として働くかたわら、芸能活動
「母から認められたい」
取材中、ヒロアキさん(仮名、46歳)は何度もそう繰り返した。理容師として働くかたわら、芸能活動をしている。昨年、独立して店を持ったが、客足が伸びずに閉店。700万円以上の借金が残った。ここ半年ほど、生活保護を利用しており、理容師の仕事はほとんどしていない。近く自己破産するつもりだという。
ヒロアキさんの掌は、指先や指の付け根が鏡餅のようにひび割れている。傷が深いところでは、赤い肉がのぞいているところもある。パーマやカラーなどの薬剤による手荒れだという。事実上の休業状態にもかわらず、この状態ということは、本格的にはさみを握っていたころはさぞ大変だったのではないか。
「働き始めた当時は、とくにひどかったです。水疱ができて、それが破れてはさみを持つ手がぬるぬるになりました。痛くてかゆくて……。(かきむしらないように)夜は手首を縛って寝てました。まるで拷問でしたよ」
薬剤が合わなくて理容師や美容師の夢を諦める人は少なくない。体質ばかりは努力や能力ではいかんともしがたいからだ。ヒロアキさんはなぜそうまでして理容師になったのか。きっかけは高校受験に失敗したとき、母親から「手に職を付けなさい」と、理容師になることを勧められたからだという。痛みに耐えながら仕事を続けた理由はただ1つ。
「母に認められたかったから」
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