「生活保護」で俳優を目指す46歳男性の葛藤 なぜそこまで「母に認められたい」と思うのか

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子どものころから趣味は映画鑑賞。古い映画が2本立てで上映される映画館に通い詰めたり、当時急速に店舗展開されたレンタルビデオ店で作品を借りたりした。中でも夢中になったのはジェームズ・ディーンの『理由なき反抗』。彼が演じる、鬱屈した思いを抱えた若者に自らを重ね、大人に反発する姿に憧れたという。ロビン・ウィリアムズやトム・ハンクスといった演技力に定評のある俳優も好きだという。

抑圧され、否定されてきた感情を、彼らのような俳優になれば表出できるのではないか。そう思い、ほんの一時期、アルバイトをしながら養成学校に通い、小劇団に所属したりもした。しかし、芽は出なかった。母親から「いつまでやるの? それ以上続けるなら、うちから出てって」と言われたことをきっかけに、理容師修行に本腰を入れるようになったのだという。

独立、失敗を繰り返したとき、元妻から「あなたは発達障害なのではないか」と指摘されたことがある。しかし、ヒロアキさんは、自分は発達障害ではないと主張する。その理由も「もし、私が発達障害だとしたら、だから母は認めてくれなかったんだ、やはり母は正しかったんだということになってしまう。それじゃあ悔しいじゃないですか」。

母に認められたい――。ヒロアキさんが繰り返す言葉からは、無償の愛情を求めることと、それが得られないと感じるゆえの反発が交錯するさまが透けて見えるようだった。

芸能活動をするのは自由だが…

現在、ヒロアキさんは生活保護を利用し、理容師としてはフルタイムでは働いていないことは冒頭で触れた。一方で、子どものころからの夢を実現すべく40歳を過ぎたときに芸能事務所に所属。昨年はある映画のテーマソングを歌うことになり、ラジオ出演などの機会も得た。ヒロアキさん自身、今は芸能活動に力を入れていると言い、1カ月に1、2万円ほどの収入があるという。

ヒロアキさんが芸能活動をするのは自由だ。しかし、技術も経験もある理容師として十分な収入を得ることができるのに、生活保護を利用することに対しては、このご時世、世間からの風当たりも強かろう。これに対し、ヒロアキさんはこう説明した。

「私だって生活保護を受けるのは申し訳ないし、恥ずかしいと思ってます。ケースワーカーからも『あなたの夢の実現ために、保護費はあるんじゃありません』と言われました。だから、私からは(生活保護を)辞退しますと言ったんですよ。でも、『野垂れ死にされたら困る』と言ってやめさせてくれないんです。

(理容師の仕事をセーブしているのは)債務整理をお願いしている弁護士から『生活保護から外されないために、あまり働かないように』と言われているんです。実は、少したちのよくない所からもお金を借りていて……。働いてお金を稼ぐと、すべて取り立てられる恐れがあるから、生活保護を受け続けるようにとアドバイスされているんです」

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