「生活保護」で俳優を目指す46歳男性の葛藤

なぜそこまで「母に認められたい」と思うのか

手荒れには悩まされたが、雇われ理容師としては成功した。深夜まで居残り、パンチパーマなどの技術を身に付け、月40万円近く稼いだ時期もあったという。20代で結婚、35年の住宅ローンを組んで約2500万円の戸建ても買った。結婚と家の購入はヒロアキさん自身が決めたことでもあったが、やはり根底にはこんな思いがあったという。

「母に認められたい」。ヒロアキさんは「(結婚して)家庭でも持てば、認めてもらうことができると思ったんです。(家の購入は)学歴もあり、サラリーマンになった兄と比べられてずっと苦しかったので、早く自分の城を構えて、兄とは違うんだということを母に見せたかった」と振り返る。

結婚して間もなく、ヒロアキさんは最初の独立を試みた。50代、60代の理容師の需要は少なく、従業員として働き続けた場合、給料が右肩下がりになることは目に見えていたからだ。しかし同時にヒロアキさんを駆り立てたのは、またしても「母に認められたい」という思い。「母に奪われてきた自己肯定感を取り戻すには独立しかないと思ったんです」。

しかし、新しい店舗は採算が取れないまま閉店。失敗の原因は「開業資金が十分ではなく、経営が軌道に乗るまで持ちこたえられなかったから」だという。当時は住宅ローンの返済も始まり、新婚で家電家具などを買いそろえたりする中、貯金はほとんどなかった。ヒロアキさんは雇われ理容師に戻ることを余儀なくされた。

ちなみに昨年の独立は2度目の挑戦。このときの失敗の原因として、ヒロアキさんは資金不足と、仲介業者から紹介された立地の悪さを上げた。立地条件はともかく、最初の起業が資金不足のせいでうまくいかなかったという自覚があるなら、なぜその教訓を生かさなかったのか。私がそう尋ねても、ヒロアキさんから明確な答えは返ってこなかった。

「母に認められたかったから」。私には、ヒロアキさんがそう言っているようにも見えたけれど、はたしてそれはうがちすぎだろうか。

なぜ母親に認められたいと切望するのか

結局、ヒロアキさんは自宅を売却。売値は購入時の半値以下だった。そして、数年前には妻とも離婚。ヒロアキさんが何か始めるとき、多かれ少なかれ「母に認められたいから」という欲求がきっかけになっているわけだが、時にそのこだわりが判断を狂わせ、選択を誤らせているようにも見えた。

ヒロアキさんはどうしてそうまでして母親に認められたいと切望するようになったのか。

ヒロアキさんの両親は彼が小学生のときに離婚。父親は小説家志望で、有名な文芸誌で賞を取ったこともあると聞いた。ただ、小説で食べていくことはかなわなかった。性格は穏やかだったが、定職に就こうとせず、わずかに稼いだお金も競輪や競馬などのギャンブルにつぎ込んでしまうような人だったという。

ヒロアキさんは離婚後、音信不通となった父親のことを「父親としてはダメだったけど、人間としてはかわいい人だと思う」と懐かしむ。翻っていわゆる女手一つで自分を育ててくれた母親に対しては「いつも感情をストレートにぶつけられ、やることなすこと否定されました」と、辛口の“評価”を下す。

中学卒業を控え、ヒロアキさんが俳優になりたいという夢を打ち明けたときも「そんな顔でなれると思ってんの?」と一蹴されたという。

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