職場がどうも合わないなら辞めても問題ない訳 拡大解釈の「やり抜く力」、方向転換のすすめ
一大ブームとなった「グリット」は誤解だらけ
著書『グリット(やり抜く力)』で有名な心理学者のアンジェラ・ダックワースは、「やめること」に関して最も有名になった研究を実施した。
ダックワースはこの研究で、米国陸軍士官学校(ウエストポイント)の基礎訓練兼オリエンテーションで、どの新入生が途中でやめるかを予測した。この訓練は、昔から「ビースト・バラックス(獣の小屋)」という別名で知られている。6週間半にわたる肉体的・精神的に過酷な訓練の目的は、高校を卒業して夏休み気分の若者たちを、見習いの士官に変えることだ。士官候補生は朝5時半までに整列し、ランニングか自重トレーニングを始める。
朝食の食堂では、椅子にまっすぐに座って、顔を皿のほうに寄せずに、食べ物を口まで運ばなければならない。朝食のあとは、授業と肉体的訓練が待っている。例えば、窓のない催涙ガス室でガスマスクを外して、顔に焼けつくような痛みを感じながら、何かを暗唱する。嘔吐する者もいる。消灯は午後10時で、また翌朝には1から始まる。この訓練では、新入生の意欲が危うくなる。
ウエストポイントに入るためには成績優秀であるうえ、運動能力に優れ、連邦議会議員の推薦も得なければならず、怠け者はそもそもビーストに参加できない。それなのに、最初の1カ月が終わる前に、何人かがやめていく。入学を許可されるために、唯一かつ最も重要な基準となるのが、共通テストの成績や高校の順位、体力テスト、リーダーシップなどを総合して得点化した「志願者総合評価スコア」だ。
しかし、ダックワースは、このスコアからはビースト終了前に誰が脱落するかを予測できなかった。そこで、情熱と忍耐力の組み合わせ、つまり彼女が「グリット(やり抜く力)」とうまく言い表したものを調べることに決めた。
ダックワースは自己評価テストを設計し、グリットの2つの構成要素について調べた。構成要素の1つは、基本的には労働倫理とレジリエンスで、もう1つは「興味の一貫性」、つまり自分の望みをしっかりと把握していることだ。
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