職場がどうも合わないなら辞めても問題ない訳 拡大解釈の「やり抜く力」、方向転換のすすめ

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グリットやそのほかの性質の重要性は、対象者の範囲をもっと拡大すると、違って見えてくるはずだ。ウエストポイントの合格者だけでなく、高校卒業者全体の中から調査対象者を無作為抽出してビーストでの生き残りを予測したら、肉体的な強さや学校の成績、リーダーシップの経験などが、グリットよりも大きな成功要因になるだろう。

ダックワースと共同研究者も、とくに選ばれた人たちだけを調査対象としたことにより、「この調査の外的妥当性[一般化して、ほかの集団にも使えること]を必然的に制限することになった」と述べている。新入りの士官候補生は、グリットのスコアがどうであれ、大半がビーストをやり遂げる。ダックワースが調査した最初の年は、途中でやめたのは1218人中71人、2016年は1308人中32人だった。

「脱落=悪い」ではなく、マッチ・クオリティーが重要

ここでもっと突き詰めて考えるべき点は、ウエストポイントをやめたことはよい決断だったのか、ということだ。

ウエストポイントの卒業生によると、ビーストやその後のカリキュラムで、士官候補生が学校をやめていく理由はさまざまだという。「どちらかというと頭脳派で、肉体派ではない候補生たちは、ビーストは期間が短いから何とか戦って、新学期にたどり着く。肉体派にとっては、ビーストは最高の場所だと思う」と2009年に卒業し、情報将校としてアフガニスタンで勤務したアシュリー・ニコラスは言う。

しかし、ビーストを修了したものの、そのあとになってウエストポイントは自分の能力や興味に合っていないと気づく生徒もいる。「1学期には、学業についていけなくて、ビーストのときよりもっと多くの生徒がやめていった。ビーストでは、ものすごくホームシックになったか、あまり合ってないと気づいた人たちがやめた。合っていないと思った生徒たちは、自分ではそれほどウエストポイントに来たいと思っていなかったのに、周囲のプレッシャーを受けて入った人が多かった」。

つまり、ビーストの間にやめた少数の人たちは、忍耐力がなかったというより、ウエストポイントとのマッチ・クオリティーの低さ、つまり、自分に合う場所ではないと知り、対応しただけだった。

マッチ・クオリティーは、実際にやってみるまではわからない。カーネギーメロン大学教授で経済学と統計学を担当するロバート・ミラーは、「複数のスロットマシンのプロセス」という形でキャリア・マッチングのモデルをつくった。

ちなみに、ウエストポイントに通うというのも、もちろん大きなキャリア上の選択だ。「複数のスロットマシンのプロセス」とは、次のような架空のシナリオから成る。1人のギャンブラーがずらりと一列に並んだスロットマシンの前に座っている。レバーを1回引いて得られる賞金は、スロットマシンごとに異なっている。

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