職場がどうも合わないなら辞めても問題ない訳 拡大解釈の「やり抜く力」、方向転換のすすめ

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大多数が最後までやり抜くが、大勢の若者が1人残らず、自分が入ろうとしている世界を正確に理解しているとは考えにくい。途中でやめた人たちは、本当は最後まで続けるべきだったのだろうか。もし、将来を考え直したのではなく、瞬間的にパニックになってやめたのだとしたら、彼らには軍隊生活についての新情報が必要だったかもしれない。だが、それを提供すれば、おそらくもっと多くの人がもっと早く脱落するはずだ。

ロンドン大学ビジネススクールの教授で、組織行動論が専門のハーミニア・イバーラは、コンサルタントや銀行員、起業家や弁護士、医師、大学教授、IT技術者などのキャリア追跡調査を通じて、「人は人生を通じてマッチ・クオリティーを最適化する」と結論づけた。

具体的に言うと、人はさまざまな活動、グループ、状況、仕事を試して、よくよく考えて、自分の物語を変化させていく。そして、同じことを繰り返す。

自分を見つめてもマッチする仕事はわからない

一方、キャリアや性格を診断するツールや、コンサルティング業界は、これとは正反対の「自分を見つめれば、完璧に自分にマッチする仕事が見つけられる」といった概念をベースにしていて、宣伝コピーにも使っている。

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イバーラは言う。「自分の強みを見つけるためのツール類(ストレングス・ファインダーなど)は、自分がこれから成長し、進歩し、才能を開花させ、新しい何かを見つけることをまったく考慮に入れずに、自己分析させようとする。それでも、人は答えが欲しいので、こうしたフレームワークはよく売れる。それに比べて、『何かを試して、何が起こるか見てみよう』と打ち出すのは難しい。まず行動、それから考える」。そして、人には可能性が無限にあることを、社会心理学を活用しながら説明する。

「それらの可能性は、実際に行動することで発見できる。新しい活動、新しいネットワークの構築、新しいロールモデルの発見によって、人は可能性に気づく」

ウエストポイントの士官候補生は、高校を卒業したばかりのときには、スキルもなく、世界にあるさまざまな仕事の選択肢についてもほとんど知らない。だから、グリット調査の「私は目標を決めるが、その後、別の目標に変えることが多い」という項目には、「ノー」と答えていたかもしれない(「イエス」と答えるとグリットの評価は下がる)。

しかし、それから数年たつと、自分のスキルや興味についてもっとわかるようになる。すると、別の目標を追いかけることは、グリットに欠ける人の道ではなく、賢明な人の道となる。

(次回に続く)

デイビッド・エプスタイン 科学ジャーナリスト

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David Epstein

アメリカの科学ジャーナリスト。ネットメディアのプロパブリカ記者、元スポーツ・イラストレイテッド誌シニア・ライター。同誌でスポーツ科学、医学、オリンピック競技などの分野を担当し、調査報道で注目を集める。記事の受賞歴も多い。コロンビア大学大学院修士課程修了(環境科学、ジャーナリズム)。

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