学童保育「体力の限界」コロナで疲弊する現場 かつてない状況に子供たちもパニック状態

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――ほかに困っていることは?

「3月は新年度から入所する子どもたちの準備をする時期でもあるのですが、まったくできません。通常の保育の打ち合わせすらもままならなくて、子どもたちが帰った後しかできませんから1時間から1時間半の残業が毎日続いています」

新年度の準備ができないことへの不安は、ほとんどの指導員が口にしていた。公設民営で働く30代のFさんもその1人。市が委託した民間企業の社員という立場で働く。

「新入所生を迎えるために、子どもたちの特徴や出身保育園、居住エリアなどを見ながらクラス分けをしていきます。その準備に例年3回は会議をして、障害やアレルギーのことなども加味しながら、職員の配置も含めた新年度の体制を作っていかねばなりません。まだ何も手をつけられない状況です」と新年度の不安を口にする。

Fさんの不安はもう1つある。

「指導員の平均年齢も高いため、体力はもう限界に達しています。出席率は通常よりは低いので、当初は会社から指示されているとおり、過密状態にならずに保育ができていましたが、このままでは指導員が倒れてしまいます。2クラスの子どもたちを1クラスに集めて保育するしかなくなりました。予防どころかいつも以上に過密にはなりますが、開所を続けていくにはどうしようもありません」

職場で目下の話題は、万が一感染者が出た場合のこと。開所は続けよ、しかし倒れるな。そして感染者が出たら責任を取れ。そんな無言の圧力がのしかかっているように感じた。

「どんな状況なのか一度見てほしい」

同じ民間委託でも、委託先の企業によって勤務形態は異なる。Fさんとは別の市の公設民営で働く40代のGさんは、週の労働時間が固定されている。

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「超過勤務にはなっていませんが、そのために、アルバイトさんしかいない時間があったりして、すでにトラブルも起きています。私にとっては十分な保育ができないことがいちばんつらいことです」と肩を落とした。

親の介護をしながら働くDさんが訴える。

「すごくしんどいし、疲れています。でも頑張れるのは、保護者の方々が、『先生たちがいちばん大変ですよね、身体は大丈夫ですか。本当に助かっています』と言ってくれるから。感染予防対策について担当部署からFAXがいっぱい流れてきますし、毎日、登所人数を確認する電話は入りますが、現場は見に来てくれない。どんな状況なのか一度見てほしい」

須藤 みか ノンフィクションライター

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すどう みか / Mika Sudo

長く上海を拠点に活動したのち、2014年秋帰国。現在は、大阪、在日中国人のほか、子どもと読書、子どもの育ちにかかわる職業などをテーマに取材。著書に『上海ジャパニーズ』他。2009年、『エンブリオロジスト 受精卵を育む人たち』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。「本好きキッズの本棚、見せて見せて!」などに連載中。

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