元TBS・58歳新人監督の「映画」が気づかせる幸せ

55歳で未開地へ飛び込んだ男を支える縁と信念

家族を知らない「孤児」たちが教育を受けることで人生の喜びと希望を獲得していくドキュメンタリーが伝えるメッセージとは?

2019年12月18日、神奈川県川崎市多摩区中野島のカリタス女子中学高等学校が開いたクリスマス会で、生徒と教職員1200人が講堂に集まり、ある1本の映画の上映会が開かれた。

作品名は『シンプル・ギフト ~はじまりの歌声~』。エイズで親を亡くしたアフリカ・ウガンダの子どもたちと、東日本大震災による津波で親を奪われた東北の子どもたちが力を合わせて歌や演奏、踊りに磨きをかけ、ミュージカルの本場中の本場、ニューヨーク・ブロードウェイの舞台に立つまでのプロジェクトを追ったドキュメンタリーである。

上映会からさかのぼること半年前の同年5月28日、登戸駅付近でスクールバスを待つカリタス小学校児童ら20人が殺傷された。事件に巻き込まれた幼い子どもたちが目にした光景、遺族の痛みと苦しみは計り知れず、系列校であるカリタス女子中学高等学校を含むカリタス学園の全生徒、教職員、保護者、卒業生など多くの関係者が大きな喪失体験に包まれた。

「人は人とのつながりでしか悲しみは癒やされない」

この上映会自体は事件とは関係なく、それ以前から計画が進んでいたイベントではあったものの、「(『シンプル・ギフト』の中で描かれている)居場所を失くした子どもたちが、さまざまな方の協力を得てつながり、生きる力や自分の居場所を見つけていく姿に、人は人とのつながりでしか悲しみは癒やされないのだと思いました。生徒や教職員はもとより私自身、映画によって癒やされました」と、カリタス女子中学高等学校の萩原千加子校長は語る。

『シンプル・ギフト』は全国の映画館で大々的に上映されている作品ではない。東京・有楽町の有楽町スバル座で2018年11月に封切られたのをはじめとして(有楽町スバル座は2019年10月に閉館)、大阪、名古屋、伊勢、新潟などこれまで20カ所余りの映画館で細々と上映されてきた、いわゆるインディーズ作品である。

そのほか上智大学、九州大学、明治大学、関東学院中学、南山高校、宇都宮大学などといった教育機関、神奈川県逗子市、兵庫県神戸市(今年2月末開催予定)、岐阜県郡上市(同4月開催予定)などの自治体も教育や啓蒙を狙いとした上映会を開いている。欧州アフリカ映画祭のオープニング上映作品にも選定され、フランス・パリでヨーロッパやアフリカの映画人らの絶賛を浴びた(2018年6月)。

思いがけない出来事により愛する家族や親しい知人・友人を失った人々の心には、深い悲しみが残る。それは誰の身にも起こりうることだ。家族が平穏無事に生きていること、身体が自由に動くこと、住む家があり、食事ができること――。

「大切なものを喪失して、初めて気づくその本当の大切さ。喪失する前にそれに気づくこと」。これがこの映画で追ったプロジェクトにこもっていると、『シンプル・ギフト』の監督を務めた篠田伸二(58歳)は言う。鑑賞した人たちが、そのメッセージをそれぞれの立場や状況から受け止め、感じ、学び取っている。篠田のもとに教育機関や自治体などから上映会のオファーが続いているのも、そこに理由があるのだろう。

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