元TBS・58歳新人監督の「映画」が気づかせる幸せ 55歳で未開地へ飛び込んだ男を支える縁と信念

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篠田は1985年にTBS入社後、主にディレクター、プロデューサーとして報道、ドキュメンタリー番組に長く携わり、2016年春に31年間勤めたTBSを55歳で早期退職した。TBS時代に長期休暇や週末などを生かして手弁当でウガンダに4回、東北に7回、アメリカに1回渡って撮りためた300時間に及ぶ映像素材を、1本の映画に仕上げることに集中するためだった。

現在はフリーとなり、映像制作や舞台演出、地方創生活動などに取り組んでいる。『シンプル・ギフト』は篠田にとって初めて手がけた長編映画作品であり、古巣のテレビはともかく映画の世界において篠田は無名の存在と言っていい。

映画が追ったプロジェクトは、世界的に著名な舞台演出家、ミュージカルの作曲家、振付師、脚本家、照明デザイナー、演出スタッフ、歌唱指導家など超一流のスタッフが裏方に名を連ねる。

出演者はまったくの素人ばかりで成し遂げた偉業

それにしても出演者はまったくの素人ばかり。そんな子どもたちが世界の超一流アーティストが演じる場でコンサートを開く――。ブロードウェイに憧れや敬服の気持ちを持つ人たちからすれば、普通は考えられないほどの偉業だ。これほど型破りなプロジェクトがなぜ進められたのか。映画界で無名の篠田がTBS社員という、収入も社会的地位も高い安定した立場を捨ててまでこのプロジェクトを映画化した意味は何か。

カギを握るのは映画本編にも登場する“たまちゃん”こと玉井義臣(85歳)だ。玉井は親を病気や災害、自死で亡くした子どもたちや、親が重度後遺障害で働けない家庭の子どもたちを支援する「あしなが育英会」の創始者であり、会長を務める。アメリカの女性小説家、ジーン・ウェブスター(1876~1916年)が書いた世界的に有名な小説「あしながおじさん」を地で行く民間非営利団体である。

あしなが育英会会長の玉井義臣と『シンプル・ギフト』本編に登場するアニータ

玉井は母親を交通事故で亡くし、妻も20代で脊椎がんを患って死去。この2つの「死」を原点として、1968年に交通遺児を励ます街頭募金を開始して以来、親を亡くして貧困に陥る青少年10万人に教育支援を行ってきた。これまでの募金額は1100億円以上。政府をはじめとする公的機関からの援助は受けていない。

自民党の選対委員長を務める元文部科学相の下村博文(65歳)は、あしなが育英会の遺児奨学金第1期生だ。そのほかにも政財界のさまざまな舞台で活躍する人も輩出しており、「そのような人たちが社会を変えていく礎になっていけばいい、というのが玉井さんの人材育成のポリシー」と篠田は言う。

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