元TBS・58歳新人監督の「映画」が気づかせる幸せ

55歳で未開地へ飛び込んだ男を支える縁と信念

当初、篠田は完成した映像作品を100万人単位で見てもらえるテレビで放送されればいいと考えていた。ただし、そのためには、映像作品がブランディングされていなければならない。

「今はスマホだけでも映像を撮れてしまう時代です。だからこそ、テレビ局が放送するのに価値のある作品だと証明しないといけません。そのために『映画』というフォーマットをとらないとダメだということに気がつきました。

遠回りではありますが、映画館で上映し、映画祭に出すことで評価されればブランドとなります。さらにメディアからの評価も得るために、映画という手法を選びました。全世界の多くの人に知ってもらうには、この手法がいちばんだと考えたのです。正直お金になるプロジェクトではありませんが」

物語はブロードウェイの舞台でフィナーレを迎えた(撮影:渋谷 敦志)

この映画を初めて上映したのは、篠田の母校である上智大学。250人もの学生、OBらが集まった。映像に出てくる子どもたちは、最終的に希望を持って旅立っていく。その子どもたちが見つけた希望は、「他者のために自分は生きる」ということ。「他者のために」という上智大学のキリスト教の理念と合致し、そこに参加した多くの人たちの心を動かした。それを機に、教育機関や公的機関などからも声がかかるようになる。

『シンプル・ギフト』を鑑賞した人からは、「今の日本の社会の中にいながら、隠れていて見えていない居場所のない孤立を感じているような人にも目を向けるきっかけになった」という感想も寄せられたという。

「“ご縁”の形となって人から人へ」

大きなうねりにこそなっていないものの、「観た人には着実に届き、そこから静かな反響が起き、その反響が少しずつ伝播し、“ご縁”の形となって人から人へつながりつつある」と篠田は言う。

TBSを辞めたことによって経済的な部分では不安がある。「思い切って片道切符の橋を渡り、新しい世界に足を踏み入れたものの、自分のやっていることがはたして何かの役に立っているのか。この非効率な取り組みを通じて『情報を発信する』という行為が、本当に届くべき人に届いているのか、自信を失う場面も正直あります。

反対されてもおかしくないことなのに、そんな自分を妻は理解してくれました。心から賛成してくれていたかどうかはわかりませんが、『あなたがやりたいことなら』と言ってくれて、私を通じて妻も玉井さんの応援者となってくれました」(篠田)。

あるがままに生かされていることに感謝し、今を精いっぱい生きること――。映画の題名でもある「シンプル・ギフト」は、キリスト教シェーカー派の聖歌である。

これは上皇后・美智子さまが皇后陛下の時にお話しになられたお言葉の一つとも重なる。「観るものに生きる希望を与え、失意のときに生きようとする希望を取り戻させ、再び飛翔する翼を整える」(『歩み 皇后陛下お言葉集』、海竜社)。

安定した道を捨てて成功するかどうかもわからないところへ飛び込んでもがく。篠田が進んでいる道は一般的なビジネスパーソンにとってのロールモデルではないだろう。しかし、篠田や玉井、ケアードのように人生で得た人との縁を大事にして、損得抜きに他者を思って信念を突き進むような人たちこそが、この世界を少しずつ変えていっているのかもしれない。(文中敬称略)

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