最近は就学援助制度(経済的に厳しい家庭に、義務教育に必要な費用の一部を自治体が援助するもの)がようやく周知されてきましたが、15年前当時、日本語がわからない祖母には、情報が行き届いていなかったのでしょう。
しかし就学援助の制度があるにしても、憲法で「無償」とうたわれる義務教育において、これほどの私費負担を求めるというのは、どうなのか? ずっと日本で暮らしてきた筆者でも、疑問に感じます。筆者も数年前、子どもの制服その他一式を購入したときは、「高いですね……」と口にせずにいられませんでした。
むつきさんが最もつらかったのは、中学3年のときでした。祖父が病気になり、手術のため祖父母が一時的に中国に戻ることになり、その間、再び伯母の元で暮らすことになってしまったのです。
叔母の家で、彼女はいつも息苦しさを感じていました。学校から帰り、家のドアを開けるときはいつも、「今日は怒られませんように、と祈る気持ち」だったといいます。
何よりつらかった「だから、あなたも同じ」という言葉
しかしある日、事件は起きました。携帯電話の利用料金が、伯母に決められた額を大幅に超えてしまったのです。当時、中学生にはよくあることかもしれませんが、「グループ内で順番にハブられる」ような状況があったため、彼女も仲間の中でそれなりの位置をキープするのに、当時全盛だったプリクラ代(携帯に画像保存するための利用料)などを出す必要があったのです。
伯母の怒りは、凄まじいものでした。謝っても許されず、追い詰められた彼女は近くにあった棒で自分の手を滅多打ちにしましたが、伯母の怒りはまだおさまりません。離れて暮らしていたむつきさんの父親が、窃盗事件に加担して捕まっていることを突然明かし、「だから、あなたもそうなんだ」と言ったのでした。
父親が罪を犯して捕まっている――それだけでもショックなのに、「だからあなたも同じ」と言われ、どれほど傷つき、悔しい思いをしたか。むつきさんは時折苦笑しながら、でもぽろぽろと涙をこぼし、言葉を詰まらせながら、話してくれました。
一家は来日当初、生活保護を受けて暮らしていましたが、伯母は人一倍努力家で、一族の中で誰より早く生活保護を抜け出し、高額納税者となっていました。そんな伯母にとって、弟の犯罪は許しがたいものだったのでしょう。でも、娘であるむつきさんと無関係であることは、説明するまでもありません。
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