JRAで「競馬の馬場」を作る男のハンパない情熱 今ある環境で"馬を強くする"という発想

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――栗東と美浦で、坂路はどれくらいの差があるんですか?

栗東の坂路は高低差が32メートルあるのに対し、美浦は18メートルしかありません。美浦は、平らな土地に作られたため、坂路としては少し物足りないです。

一方、栗東は、もともと山あいのところに作られたので、自然に坂のコースができたんです。栗東に坂路ができたのが1985年です。坂路を走らせた馬が競馬で結果を出すようになり、栗東の坂路はどんどん延伸されていきました。美浦に坂路ができたのが1993年です。

“馬を強くする馬場”はどうやって作るのか

――その差を埋めようと、美浦では“馬を強くする馬場”を作ったそうですが、どういう馬場なんでしょうか。

高低差18メートルの坂路でもトレーニング効果を高める方法はないかという取り組みを、2013年ころからやっていました。ウッドチップは、馬が走るとどんどん細かくなるので、基本的には年1回新しいものに取り換えます。けれども、あまりきれいすぎると馬が走りやすくなり、トレーニング効果が出にくくなります。そのため、あえて細かいチップを使い、馬を疲れさせるんです。

――細かいチップを使うことで、トレーニング効果は上がりましたか?

追い切り日というのがあって、競馬と同じようにめいっぱい走らせる日があります。細かいチップを使った結果、この追い切り日のタイムが遅くなりました。それだけ走りにくい馬場になっているということです。馬の血中乳酸値も上がっていて、トレーニング効果が高まっていることも確認できました。

ですが、雨が続くと必要以上に状態が悪くなってしまい、安定しないという問題がありました。調教師は、この状態のこの坂路なら何秒で走ってこい、というような指示を出します。ところが、坂路の状態が安定していないので、自分の持っている感覚より馬が疲れてしまうということが起きます。そういったことが問題視されていました。

――あちらを立てれば、こっちが立たずですね。状態を安定させるために、何か工夫をしたのでしょうか。

タイムは遅くしつつも、状態を安定させるにはどうしたらいいかということで、ウッドチップの粒度を工夫しました。

2016年の途中から、少し粗い素材を使ってみました。すると安定はしましたが、タイムが速くなりすぎてしまいました。2017年には、もう一段階細かくします。そうするとちょうどいい状態に持ってくることができました。その試行錯誤をしていた期間、本当にあの坂路を見ない日はないというくらいに、毎日通い詰めました。

この取り組みは、賛成意見もありましたが、批判もありました。基本的に職員は反対意見が出ることをやりたがりません。それでも現状を打破するためには「やるぞ」という、当時の上司の強い思いがありました。それで頑張ろうという気持ちになり、みんな一生懸命に取り組みました。今あるものを工夫して、いい調教をしてもらおうという取り組みなんです。

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