JRAで「競馬の馬場」を作る男のハンパない情熱 今ある環境で"馬を強くする"という発想

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――競馬では、取り組みの成果は出たのでしょうか。

実際のレースの結果はこれだけで決まるものではありません。けれども、こういう坂路でしっかり調教してくれた馬がレースで勝つとうれしかったです。

九州の小倉のレースは関西馬が多く行くので関西馬が強い、逆に福島は関東馬が強いんです。一方、函館と札幌のレースには関西馬と関東馬がほぼ同じ数が行くので、北海道の成績は注目していて、2015年に関東馬が勝ち越したんです。職員は本来、どちらかに肩入れしてはいけないんですけど、そのときはうれしかったですね。

――現在、美浦トレーニングセンターは大規模な改修工事を進めていますよね。

一連の施設改修計画があって、そのなかで坂路も改修します。15メートルほど掘り下げて、高低差33メートルのコースができる予定です。そうなれば、対等な坂路ができることになります。

“人に感動を与えられる会社”に就職できた

――長岡さんは、どうしてJRAで働こうと思ったんですか?

きっかけは中学生のころです。たまたまテレビをつけたら、ナリタブライアンとマヤノトップガンという2頭の馬が、ものすごいレースをしていて。2頭が飛び抜けてマッチレースで決まるなんて、競馬ではまずないことです。それから興味を持つようになりました。

大学院では土木を専攻していました。土木関係のコンサルティング会社を中心に就職活動をしていましたが、就活サイトでJRAが土木職を募集していると知りました。プライベートで好きなことと、専門が結びつく仕事はほかにないと思い応募しました。

――実際にJRAに就職してよかったと思うことはありますか?

僕がJRAの内定をもらった2005年は、ディープインパクトが三冠馬になった年です。菊花賞に勝てば三冠達成というときに、スタンドまで見に行ったんです。単勝のオッズは1倍、観客は13万6701人という人気です。僕はゴール正面の階段で見ていました。

本当にゴールの瞬間、すごいんですよ。13万人の歓声で地面が揺れるのがわかるというか、それくらいにすごかったんです。それを見たときに、こんなに人に感動を与えることができる会社に入れてよかったなと思いました。

――JRAの仕事でいちばん大事なことはなんでしょう?

「公平・公正さ」と「人馬の安全」を大事にしています。例えばダートの砂の厚さが場所によって違うと、有利不利が出てきてしまう。ですので、競馬開催中はずっと砂厚の調整をしています。芝もそうです。

走ると掘れてくるので、100人ほどの作業員が人力で補修をします。それに加えてここ数年は、芝のクッション性を高める取り組みをしています。芝自体もよくなっていて、芝の刈り方もノウハウがずっと積み重なっています。馬場の管理技術は、そういった先人たちの積み重ねでできていると感じます。

競馬というのはお金がかかっていることもあり、批判されることもあるのだろう。それでも現状を変えるために、自分がやれることをやるという姿勢には見習いたいものがある。
それにしても、取材で訪れた東京競馬場のムラなく均質に仕上げられた芝はすばらしかった。あんな芝はなかなか見ることがない。レースの結果より桜花賞の日に桜が咲くか、自然のほうに興味がある筆者だからかもしれないが、競馬場に行ったらぜひあの芝を見てほしい。
高橋 ホイコ ライター

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たかはし ほいこ / Hoiko Takahashi

1976年生まれ。国民生活センター勤務を経てフリーライターに転身。ウェブメディアを中心に執筆中。企業の一風変わった取り組みへの取材を得意とする。趣味はホルン演奏、ピンクのガジェット収集、交通インフラの豆知識集めなど。トマトマンの斜め上行く生活術管理人。

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