「ドラクエ5劇場版」ファンが心底落胆した理由 制作者の主張強すぎだ「ユア・ストーリー」

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そして、そもそもこの映画自体も「子どもの頃からドラクエを遊び続けてくれている人」を対象にした作品である。映画のターゲットを大人に設定しながら、どうして現在にわざわざ「ゲームは子どもの遊び」という古い偏見を持ち込んでしまったのだろう?

ゲームに対する“社会の偏見”をラスボスとして扱うという、ストーリー上の主張はわからないではないけれども、実際にはすでにゲームは社会に十分に受け入れられている。「大人になれ」という偏見は、もはや時代錯誤の感さえある。

ドラクエ5は親子3世代を貫くストーリーのゲームである。かつてドラゴンクエスト5の発売当時、リアルタイムで遊んだ世代が、現在は40〜50代だとすれば、すでに子どもが成人している人も多いだろうし、孫を持つ人もいるだろう。

ドラクエ5のストーリーに何らかの「現実」を組み込むのであれば、「大人になれ」のような古臭い偏見ではなく、そうした「われわれ自身が3世代をつないでいること」そのものを組み込んだほうが、子どもの頃からゲームに親しんできた世代に、より直接的に訴えることのできる作品になったのではないだろうか?

残念だった「制作者の強すぎる主張」

ドラクエ5が好きで、映画に期待して見に行った人たちが、この作品に対して怒っていたのは、決してこの映画がつまらなかったからではない。

それは、この映画の「ユア・ストーリー」の部分が、映画館でこの映画を見た人たちのストーリーからズレていたからだ。それはまったく「あなたの物語」ではなかったのである。

ゲマを倒すところまでは、本当に楽しい娯楽作品だった。それだけに、映画の主張が強すぎてしまったことを、とても残念に思う。

赤木 智弘 フリーライター

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あかぎ ともひろ / Tomohiro Akagi

1975年栃木県生まれ。2007年にフリーターとして働きながら『論座』に「『丸山眞男』をひっぱたきたい――31歳、フリーター。希望は、戦争。」を執筆し、話題を呼ぶ。以後、貧困問題などをテーマに執筆。主な著書に『若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か』『「当たり前」をひっぱたく 過ちを見過ごさないために』などがある。

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